「2年前よりいい牛になった」森さんの黒毛和牛
2001年3月4週号
グリーン牧場、森久さんとは、17年前からのお付き合い。オルター代表夫人厚子さんとは、子どもの保育所で出会ったのが、良い牛肉作りを目指したきっかけでした。
出荷するために枝肉をさばいてパック詰をしてもらうために、近所の肉屋さん大平慶典さんに協力を求めたのがラッキーでした。大平さんはもともと牛を飼う農家だったのです。自分で育てた牛をちゃんと扱ってもらえないことから、一念発起して、とうとう自分で売るために肉屋にまでなった人でした。
子牛を購入するために、各地の多くの情報を持っておられ、その大平さんのアドバイスが森さんの牛飼いの腕を上げていったのです。大平さんにさばいてもらった牛肉を森さんも一緒にパック詰されてこられました。自分が育てた牛の割った状態(屠体)を、自分の目で見ながら、飼育方法を改善してこられたのです。良い肉も、悪い肉も、その原因を考えながら取り組んでこられました。
このような取組みを始めた頃は、130頭のホルスタインを飼育していました。体を壊すほどで、エサやりなどに忙しかったけれど、安く買いたたかれて生活は楽ではありませんでした。目が届かない分、風邪や肺炎、さらには事故などで牛が死んでしまうこともたびたびでした。濃厚飼料主体の餌を与えていたために、肉は水分が多く、べちゃべちゃして、肉汁のしみ出る、色の濃い、きめが荒く締まりのないものになっていました。
改善は、まずワラなどの粗飼料の比率を上げて、丈夫な胃袋を持つ牛を育てることでした。5~6年目からは、品種を、かつて役牛だった黒毛和牛に切替え始めました。既成概念にとらわれていたお父さんとは、牛の飼い方をめぐっていつも喧嘩ばかり。しかし、今では普通の飼い方をしていた仲間はすでに牛飼いをやめています。森さんは生き残ったのです。
現在、森さんのところには黒毛和牛、それも肉質の良い雌ばかり35頭。これを、粗飼料をふんだんに与えてゆっくりと長期に飼育しています。ゆったりと楽な気分で飼うので、事故や病気も出ません。「牛も良くなついてくれる」と喜んでおられます。肉質は、きめが細かく、脂身には臭みがなく、甘く香りがあり、舌の上でとろけるようで、味わいがあり、高い評価を受けています。目指していた「明治時代後半」の昔の牛肉が実現していると思われています。それでいて歩留まりも良く、付加価値も高いので、むしろ生活は楽になったとのこと。
今までは肉質にばらつきがありましたが、ここ2年ほどは品質が安定し、粒ぞろいになって、やっと自分が思っている肉に仕上げられるようになって、出荷が楽しみだとおっしゃっています。そして、なによりも大平さんが誉めてくれることが嬉しいとも。
大平さんは「多頭飼いの時代は終わった。インチキはいつかはばれる!ちゃんとしたものを作る者が勝つ」とおっしゃっています。森さんは「私達と付き合った当初は、森さんが、今は消費者の方がもうけている」とおっしゃいます。「完成に向け、80%まできている。残る課題は、まだ半分を占めている輸入飼料から、より自給を高めたエサにすることだ」とおっしゃっています。
~グリーン牧場の黒毛和牛~
阿讃山脈の山の中、水も空気もよいところに、森さんの牧場があります。牛の飲み水は谷水です。
◆品種◆
子牛はおもに鳥取県から、6~8ヶ月齢で購入。
◆エサ◆
購入から半年間は、ほとんどワラだけで育てます。穀物は風邪をひかない程度にとどめます。ミネラル分として赤土を、塩分はかめびし醤油の搾りカスを与えています。ガリガリの状態に育て、胃袋を丈夫にするのです。その後、肥育に移ると次のような割合の粗飼料主体の餌を与えます。
牧草(北海道産チモシー、米国産イタリアン)
稲ワラ(徳島県脇町産)
ビール粕(ビール麦は輸入物)
ふすま(輸入物)
大麦(カナダ産)
大豆粕(輸入物)
配合飼料(肉用牛肥育配合、植物性原料のみ)
赤土
かめびし醤油粕
動物性のエサを与えると早く大きくなりますが、狂牛病の心配があったり、エサに抗生物質などを加えていますので、動物性の飼料は与えていません。
しかし、残念ながら遺伝子組換えやポストハーベスト農薬はクリアーできていません。配合飼料も問題があるため、さらに改善が求められています。
◆飼い方◆
通常は2.5年で仕上げますが、森さんでは3.5年と1年以上ゆっくりと育てています。また、1頭ずつ大きな囲いに入れたマンション飼いにしていて、ゆったりとした桝飼い。少頭飼育が特徴です。通常はギュウギュウ詰めにしているところがほとんどです。牛には毎日のようにブラッシングしてやって、フケやダニを取ってやり、痒いところにまで手を届かせています。牛はゆったりとしており、おとなしい。このように、自分にあったやり方で育て、できた堆肥も自家消費しておられます。
これで月2頭のぺースでの出荷ですが、注文が多い場合には、大平さんの牛も出せます。大平さんも全く同じ飼い方で、約100頭います。森さんの牛肉はほとんど霜降りです。雑に飼うと、こうはいきません。オルターとしては必ずしも霜降りをお勧めしてはいませんが、やわらかさを求める日本人には好まれる味です。興農ファームの赤身肉に満足できない人にはお勧めです。
森さんは、牛肉は野菜を食べる助けにして、肉の3倍の野菜を食べるべきだとおっしゃっています。
また、森さんの牛肉を頼んで、脂身が多いと文句を言われる方がいらっしゃいますが、この脂身が牛肉の味でもあるのです。脂身が嫌いで、なおかつどうしても和牛を食べたい人にはモモ肉をお勧めします。脂身は焼肉用→スライス→バラスライスという順に、多くなっています。
市販の牛の問題点
狂牛病の心配が一番ホットな話題。フランスでは子供に牛肉を食べさせない、一流レストランから肉料理が消えたと大騒ぎです。イギリスで焼却処分されたはずの狂牛病肉が闇ルートで拡がり、ヨーロッパの国など17ヶ国以上で狂牛病が発生しています。もちろん、日本も安心できません。
配合飼料で育てると、牛は早く大きくなりますが、水分の多い、色の濃い肉質になります。遺伝子組換え、ポストハーベスト農薬、飼料添加物、動物医薬品など問題だらけです。牛はもともと草食動物で、穀物で育てるものではないのです。粗飼料を与えられない牛はまずい肉になります。手間ひまかけている人を評価しない消費者は、結局まずい者を食べさせられるのです。
カタログ2000年8月第2週
「狂牛病」 、「O-157」、「オーストラリア牛肉の農薬汚染」、
「アメリカ牛肉の女性ホルモン汚染」
カタログ20001年11月第4週
「狂牛病」
などをあわせてご参照下さい。
―文責 西川栄郎―