谷農園のお野菜がおいしいわけ

2001年4月2週号

 

谷農園の小倉和久さんは三重県上野市で農薬や化学肥料を使わないで、野菜を育てています。小倉さんが耕している畑はどの畑も土がフカフカで柔らかく、そこで育つどの野菜も甘く、おいしい野菜です。亜硝酸態窒素の心配のない若草色。
 実によい野菜が育っています。このようなおいしい野菜を育てられるようになったのには、もちろん、後述するような小倉さんの優れた自然観察力と、それに基づいた工夫があります。

 小倉さんは京都府立農業者大学校を出て14年目、農薬を完全に止めたのは6年前の28歳のときです。農家の次男として生まれ、子どもの頃から畑や山の中で走り回っていました。そのため、農業に就くのは当り前と思っていました。初めは、ブロッコリーの種を採取する農家でした。しかし、農薬を使っていて下痢や湿疹に悩まされました。そんなとき、愛農大学講座で小谷先生と会い、農薬を減らそうと思ったのでした。 
 オルターへの紹介は天地農場の久門太郎兵衛さんですが、久門さんと会ったのもその頃でした。当初は農薬をかけなかったら野菜が育たないのではないかと心配していたときもありました。有機農業を志すことを人に話したり、集荷場に「自然農法」と書いた看板を掲げたりして、ややもすると農薬をかけたくなり、くじけそうになる気持ちを抑えてこられたのでした。そして、今ではまだ34歳の若さながら、技術も高く、農業で食べていけている立派な有機農家となられています。そろそろ仲間づくりを考えるようにもなり、積極的に研修生も受け入れておられます。その研修生が育って生活できるようになるためには、流通が育ち、多くの消費者と手を携えなければなりません。
 自然の中で育つ野菜は、色が淡かったり、形が不揃いであったり、虫が食べていたり、といろいろです。そんな野菜がクレームとなったりするのです。そんなことに理解のある人達へ出荷していきたいと考えられています。
 お子さんが身体障害者になり、今の社会の中では、弱い人や何も言えない人が社会の端にいることを知りました。弱いものが、社会の真ん中で生きられる世の中にしていきたいと考えられています。野菜の計量、袋詰、加工、その他いろいろな作業を身体障害者ができるよう作業場作りを進めておられます。農場に来た仲間、玉井たかしさんに畑の一角で養鶏場を建設し、養鶏を始めているのも、このような作業場作りの一貫なのです。
 この玉子の出荷が、オルターへは5月頃に始める予定ですので、その時は皆様のご支援をよろしくお願いします。

谷農園の無農薬野菜
畑は、露地400a、雨除けハウス60a、田んぼ30a、合計490aで、ほとんどが借地です。そこで、旬の野菜を露地中心で育てています。ハウス栽培もしているのは、年中野菜が途切れることがないように配慮しているからです。ハウスにも、ところによって白い寒冷紗をかけて、1~2℃の温度差を生じさせるように工夫して、収穫時期をずらすようにしているのです。
畑作農家としては、かなり広い農地を家族4人と研修生6人で耕しているのです。
<作物>
 こまつな、ほうれんそう、きくな(シュンギク)、ねぎ、にんじん、ニラ、大根、ごぼう、かぶら(蕪)、みぶな(壬生菜)、みずな(水菜)、べんりな、キュウリ、ピーマン、ナス、トマト、里芋、ひのな(日野菜)[加工用]など旬の野菜全般です。
<肥料>
草が中心です。その他、もみがら、酪農家(搾乳牛)の堆肥、ぼかし[内臓・羽根・肉・魚粉・植物油(これらは分解されてしまうものの、原料としては問題が残るとオルターとしては考えています)などに硫化菌、硝化菌、繊維分解菌、酵母菌、好熱菌など約100種類の有効微生物を働かせたもの]、油カス[平田産業、圧搾菜種カス]など。

畑を耕し始めるとき、まず桁外れにたくさん堆肥を入れます。それから、3年ほど放置します。草ができるようになるまで畑を休ませて、使うのです。その草をロータリーで鋤き込みます。土がよくなって草ができるようになったら、野菜を作り始めます。まず草がよくできる土にすることが大切です。肥料は秋にやり、野菜は残った肥料で春から作ります。窒素過多で障害が出るほどたくさん堆肥を入れているのに、窒素過多とならず、むしろ窒素肥料不足となっているのは、草のような粗大繊維質をたくさん入れているため、その繊維が分解されるときに多量の窒素が消費されているからと思われます。だからこそ、よく肥えている土なのに、窒素不足気味で亜硝酸塩の心配のない、よい野菜が収穫できているのです。肥料が消えている頃に、それを補う程度に肥料を使うという施肥管理を行っています。
小倉さんはなぜこのような工夫に到達されたかといえば、野菜の味をみながら、畑を歩いているからなのです。おいしい野菜を作ったときの方法を覚えておいて、改良を続けられたのです。小倉さんは「荒れた畑の方がおいしい」ということに気づいておられます。昔「養生訓」を書いた貝原益軒の「畑より野にできるものが優れている」という境地に他なりません。
<防除>
基本的に畑の野菜が虫にとって土手の土よりまずくすること、すなわち若草色にすると、畑には虫が入らない。それでも例えば、ねぎに赤いダニが増えてきた場合には、海藻エキス(のり)で窒息させています。
<除草>
手除草や、自分で開発したガスバーナーで草の新芽を焼き、何とか野菜が勝つようにします。

谷農園ではたくさんの野菜を作りますが、出荷はよいところだけを採ります。出荷できないような形の悪いものは、そのまま畑へ鋤き込んだり、競馬場の白鳥のエサにしています。近くオルターへ出荷予定の玉井たかしさんの鶏も、そのくず野菜を緑餌として利用し、その鶏糞も利用しようと考えてのことなのです。
小倉さんの野菜作りは一見粗放で手抜きのように見えます。しかし、実際は広い畑を有効利用していて、決して無理をせず、しっかりと危険分散を考えた、緻密な工夫があります。こうして、収量や見かけにとらわれない、生産と流通のつながりの、一つのお手本のような農家がここにあるのです。

一般の野菜の問題点
 収量を上げるために化学肥料を使うので、形は立派でも亜硝酸態窒素(がんや貧血の原因)の多い、苦くて、えぐく、まずい野菜になっています。こういう野菜はゆがいたりするとあくが抜けて、すっかりぺちゃんこになってしまうような野菜でかさが減り、むしろ高くついているのです。あくが多い分、当然栄養価も少なくなっています。旧科学技術庁が10年に1回発表している標準栄養改訂表でも、野菜の栄養価が年々少なくなっていることを示しています。
化学肥料を作ると土壌の微生物相が荒廃し、過保護となった作物は病気や害虫に弱くなります。これに農薬をかけるのです。この農薬に対し、虫に耐性ができているため、ますます強い農薬をかけるという悪循環が始まります。温暖な地方の畑などでは、畑を利用する頻度が高く、農薬の残留量も大きいのです。
こういった日本の農家も、大型基盤整備や機械にしか補助金を出さない農政によって、借金に追われ、まともに後継者が育たない状況にあって、農家の担い手の老齢化が起っています。このままでは海外からのポストハーベスト農薬の汚染にまみれた野菜がやがて日本の食卓を覆いつくすのは時間の問題です。

―文責 西川栄郎―

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