伝統的な粗放養殖を守る エコシュリンプ
2001年6月1週号
風と水と太陽が育てるエビ
エコシュリンプもマスコバド糖(カタログ2001年5月第3週参照)、バランゴンバナナ(カタログ2001年5月第4週参照)と同様、オルタートレードジャパン(ATJ)の取扱い品です。インドネシア、ジャワ島東部州都スラバヤの南、シドアルジョという町の近くの海辺に、エコシュリンプの伝統型の養殖池があります。人工的なエサや薬品を使わず、風と水と太陽が育てるエビです。
現在日本は、世界一のエビ消費国で、その9割は、東南アジアなどから輸入される薬品漬けの養殖エビです。そして、魚屋で「車エビ」として売られているものが、実は台湾で養殖された「ブラックタイガー」だったり、「大正エビ」がインド産の「ホワイト」だったり、寿司屋で「甘エビ」と思って食べていたのが、ノルウェーやデンマーク産の「ホッコクアカエビ」だったりするのです。
1961年にエビ輸入が自由化され、62年にインドからの冷凍エビ輸入が開始されました。70年にはインドネシア近海でトロール漁が始まり、75年には2万トンを越える急成長ぶりでした。しかし、トロール漁はエビやその他の魚を乱獲するため、海の資源の枯渇や破壊を招き、沿岸漁民の生活を圧迫しました。80年、インドネシア政府はジャワ島、バリ島周辺でのトロール漁を禁止しました。
タリさん(父親が管理する養殖池の手伝い)
こうして天然えびの漁獲が少なくなって、養殖が増えてきました。77年に台湾でブラックタイガーの集約的養殖が始まりました。狭い池にたくさんのエビを密飼いし、人工飼料によって短期間に大量生産するという方式です。密飼いによるストレスや人工飼料の食べ残しによる水や土壌の汚染で、エビの病気が多発し、大量の抗生物質が使われました。やがて使用不可能となった池は汚染され、放置され、次々と新しい土地に養殖池を作っていく悪循環に陥りました。当然、環境汚染も激化しています。80年末に、台湾ではウィルス汚染や地盤沈下が深刻になり、生産量が激減しました。その後、タイやインドネシア、ベトナム、インドなどでマングローブ林を伐採して、台湾方式の集約型エビ養殖が進められ、環境問題や社会問題が次々と広がっていったのです。エビ好きの日本を支えるために、開発途上国ではこのような犠牲が積み重ねられているのです。
これに対し、伝統的な粗放養殖をしているエコシュリンプは自然と共存する持続的な養殖法で、環境を破壊しません。また人工的なエサや薬品を使わない生産方式で、加工、流通上でも薬品を使わず、消費者にとっても安心、安全です。生産、加工、流通、消費の各段階での価格構成が明確で公正で、生産者、消費者、加工業者にとって利益のある安定した取り引きになっています。生産性は劣りますが、肉質がしっかりしていてプリプリとした質の高い食感が楽しめるエコロジカルなエビを生産者の顔のみえる関係の中で取組むことで、消費者の食の安全と生産者の自立的、安定的な経済活動を支え、ひいては地球環境保全にもつながっているのです。
エコシュリンプ
<種類>
クルマエビ科クルマエビ属のブラックタイガー
<養殖方法>
200~300年続く、伝統的なバンデン(ミルクフィッシュ)の粗放養殖の手法を活かしたエビ養殖で、1980年代後半から始められました。ジャワ島東部の汽水域に7~10haの池が水田のように作られています。
①エサ作り
10月は乾期の終わりで、潮の干満が小さくなるため、「池干し」をし、池の日光消毒や掃除、修理をします。整備が終わった池に水を入れてガンガン(水草)を繁茂させます。ガンガンが成長すると、いったん水を抜いて、ガンガンを発酵させ堆肥化します。そこへ再び水を入れるとプランクトンが発生してきます。こうしてできたプランクトンや水草、藻がエビやバンデンの重要なエサとなります。人工飼料は使用しません。
②稚エビの放流
エサの準備が整ったら、稚エビの放流です。養殖池は3~4面で構成しています。その一つに穴を掘って、地面から染み出る塩分濃度の濃い海水をため、イプアンと呼ばれる稚エビ専用の小池(種苗池)を作ります。雨期などで池の水の塩分濃度が低くなるときも、このイプアンで生まれたときと同じ海水濃度で守っているのです。「プランクトンが多すぎると稚エビはかゆがるんだ」と生産者は語ります。だから最初は、イプアンはガンガンの少ない区画に作られています。その後、成長とともにイプアンの壁を少しずつ崩して、養殖池の汽水に慣れさせたあと、プランクトンの豊富なユニットへ移していきます。
③ストレスもなくゆっくり、ゆったり
夜行性のエビの習性を考えて、池の周りに溝を掘り、水深を作り、外敵から守れるようにしています。バンデンは池の中を元気に泳ぎ回り、酸素を水中に取り込む役割をしています。
この池の周りをコンクリートで固めた一般の集約型養殖池では、畳一枚あたり70尾ものエビがひしめき合っています。これでは水中の酸素が不足するため、1日中水車を回しています。エコシュリンプは畳一枚に4~7尾と、密集によるストレスもなく、ゆったりと成長していきます。エサも自然のものなので、水を汚すこともなく、病気が発生することもないので、抗生物質の必要性も全くありません。池の水の交換は、潮の干満を巧みに利用しています。
④収穫
稚エビはおよそ4~5ヶ月で収穫できるサイズに成長します。収獲量は1haあたり200~300kg。過密養殖をしている集約型は何と10~20トンと100倍にものぼります。生産力を上げることに終始する集約型の池は、2~3年しかもたないと言われ、使用不能になった池は汚染のため農地に戻すことも難しいのです。集約型は一時的な高収入をもたらしますが、巨額の投資と経費を必要とし、修復困難な環境破壊を伴います。すべてが自然と人との力による伝統的な粗放養殖は、収獲量は少ないのですが、子孫が生まれ暮らす自然の生態系を破壊せず、健康で持続的で誇りがもてる技術なのです。
エコシュリンプの捕まえ方は、新鮮な水に向かってエビが遡上する習性を利用しており、自主的にプラヤン(竹製の仕掛け)に入り込む仕掛けです。こうして元気なエビをやさしく、傷つけることなく捕獲しているのです。
川から池に多くの水を取り入れることのできる「大潮」の時が収穫のピークです。作業はこのように自然に合わせて行なっています。
また、エビ養殖池の周辺の村人たちが、収穫後に池に残されたエビやバンデン、その他の魚を分かち合う、共同体のしきたり「ブリ」という慣習があります。
⑤氷漬け
収穫後すぐに氷漬けされ、雨期にはボートで、乾期はバイクで倉庫まで運ばれます。
⑥倉庫
出荷グループの倉庫で再び選別され、加工場へ運ばれます。
⑦冷凍加工工場
産地で1尾ずつバラ凍結され、そのまま消費者宅までお届けする「シングルフローズン」です。その間、薬品処理など一切行なわれません。
市販のエビの問題点
過密飼育を行う、集約型のエビ養殖は、熱帯のマングローブ林を伐採して行われているため、まずマングローブ林の破壊が問題となっています。また、人工的なエサや抗生物質など薬品による水質汚染、土壌汚染も問題となっています。
養殖エビは、エサに使われている抗菌剤や酸化防止剤などの飼料添加物、多発する病気の予防に使われる抗生物質などの動物医薬品など畜産の場合と同様、その安全性に問題があります。
さらに市販の場合、養殖、天然を問わず、加工工場で変色防止などのために、酸化防止剤などの薬品が一般的に使用されています。
―文責 西川栄郎―