椎茸はどれでも原木栽培だと思っていませんか。
2000年6月4週号
滅びゆく原木栽培椎茸を守りましょう。
1999年、日本の原木栽培の生産者の多くが廃業に追い込まれました。大阪府下でも生残りはわずか数軒と激減しました。オルターの椎茸生産者奥野さんがやめられたのもこのときです。原因は原木椎茸菌の劣化(品種の劣化)でした。収量も品質も落ちて、収入が減ったためでした。消費者の多くが原木栽培の椎茸の価値に気づいておらず、輸入物や菌床椎茸と価格面で同列の扱いを受けてきたからです。菌床栽培は薬品漬けで生産効率もよく、見ためにも立派なものが作れます。
昔の椎茸は原木栽培が当たり前でした。もちろん、化学薬品なども全く使わない、まさに自然栽培だったのです。しかし、現在では薬漬けの菌床栽培が全盛になってしまいました。原木栽培はただでさえ①コナラ、ミズナラ、クヌギなど原木の入手が難しくなっています。②重たくて作業が重労働です。それに対して菌床は、他の工場で大量生産したものを安く購入し、大量生産ができるのです。軽いため作業も楽です。使い古しの菌床からも形の変わらない椎茸がとれるのです。しかも、この菌床栽培椎茸は大規模な工場で生産される時代になろうとしているのです。
今や、粗悪で危険な輸入椎茸や菌床栽培椎茸がのさばって、消費者にとって安全でおいしかった椎茸がまさに滅びる寸前となっているのです。原木栽培を守れるかどうかは、ひとえに消費者の選択にかかっているのです。
井上順一さん
森からの贈り物。井上さんの原木栽培椎茸
これまで各地で見てきた栽培技術の中でも、井上さんの椎茸栽培はピカいちです。だから生椎茸も乾燥椎茸も一見して絶品だとわかるくらいです。
井上順一、陽子御夫妻は、毎日重い原木を数百本移動、浸水、発生操作などにともなう重労働をされ、安全でおいしい本物の椎茸作りのために原木栽培を続けられています。晩秋から桜の花が咲く直前まで、山に伏せ込んであるホダ木から自然に発生してくる椎茸を山リスが好んで食べにきます。本能的にこの時期の椎茸に養分が特に多いことを知っているのでしょう。この山リスと競争で、乾燥椎茸を主としてこの時期のもので作っておられます。
<原木>
福島県産原木「コナラ」を使っています。15~30年もかけて大自然の中で自然の精を吸い上げて育った広葉樹を90~100cmに伐採して使います。
<作り方>
2月から3月に、コナラの原木にドリルで穴をあけて椎茸菌を植え、穴をロウや発泡スチロールで蓋をしておきます。葦簾(よしず)や寒冷紗(かんれいしゃ)などでおおい、森の中で半年から1年半をかて、自然の恵みをいっぱい吸収して、菌の蔓延した原木をホダ木といいます。こうしてできたホダ木を谷水に8~24時間浸水して、発生操作を行います。3~7日で採取できる大きさに育ってくれます。冬期には、床にお湯を循環させて暖房します。採取が終わったホダ木は、屋外で30~50日休養します。このような操作を2年間に7~8回行いホダ木の一生を終えるのです。
井上さんは、味、色、かたさなどおいしいと喜んでいただける椎茸を作るため、品種や栽培方法などいろいろ工夫されています。
<食べ方>
・焼く、煮る、揚げるはもちろんのこ
・かるく湯通し後、酢の物に。
・炊き込み御飯
もちろん、農薬、化学肥料など一切の化学薬品を使っていません。
等、年中の食卓にご利用して下さい。
市販の椎茸の問題点
消費者はとかくみせかけにだまされやすいものです。生椎茸についても市販品は大きくて比重の重いものが多く出回っています。そういうものは、しかも安いのです。なぜなら、圃場の水管理次第では水でいくらでも大きく重たく成長させることができるのです。そういうものは栄養過多の過保護で育つためすぐに鮮度落ちし、笠の裏がすぐ黒ずんできますし、まずいのです。それに対して井上さんのような良い椎茸は小ぶりで比重も軽く、さしみで食べられる鮮度を長く保っているのです。料理に使って、良い椎茸の方が実は安くつくのです。
スーパーの店頭に並ぶ安い中国産の生椎茸はそのまずさゆえに一時ほど隆盛ではなくなりましたが、まだ主流です。日本の商社が技術をもち込んで安く作らせているものです。危険な菌床栽培というだけでなく、栽培段階で殺虫剤、殺菌剤を使い、輸入段階ではポストハーベスト農薬もある、とんでもない椎茸です。
最近増えてきた国内の菌床栽培は数種類のおがくずに椎茸の栄養となる人工的な栄養剤や化学薬品を混ぜ、ブロック状、味噌玉状に固めた合成培地を施設内において3~4ヵ月かけて菌を回し、その後椎茸を発生させる方法ですが、これに関してもまず、使用されているおがくずが問題です。国産材おがくずならまだましなのですが、輸入材おがくずの場合、エンドリンやディルドリンのような畑ではとっくに使用されなくなった極めて有害な有機塩素系農薬が使われていることもあるのです。また、おがくずを使用しているということは、かまぼこ板のように木材のしんまで漂白剤を使って白くしたようなものも混入してくる心配もあると考えなければなりません。
菌床栽培の床を作るためには、このおがくずだけではなく、おからやふすま、とうもろこし(どちらもポストハーベスト農薬、遺伝子組換などの問題あり)、化学肥料はもとより、殺菌剤(トルコデルマという椎茸菌の着床を妨げる青・白カビを殺すのにベンレートなどの農薬が使われています)や、ホルモン剤も使われているのです。菌床きのこから猛毒のチアベンタゾール(TBZ)という農薬が検出された例もあるのです(日本応用きのこ学会誌Vol.7、NO.1)。そして、他の作物同様農薬耐性菌問題などで、ますますその使用量が増加している恐れがあるのです。通常、しいたけ栽培の原木を捨てておくと、カブトムシなどが繁殖してくるのですが、市販の菌床ではカブトムシは5年放置したあとの菌床でも養殖できない死の世界というしろものです。
ところで、原木栽培なら全て大丈夫かといえば、原木を水槽に漬けるときに増収をはかるため、殺菌剤、ホルモン剤、原木栄養剤が使われているケースもあり、必ずしも安心できないことがあります。
◆1日1枚!椎茸の素晴らしい効用!
椎茸の効用については各地の大学、研究機関から様々な研究発表がされていますが、主な物を上げますと、
★血圧を正常に保ち、血液を詰まりにくくして、心臓病や脳卒中を防ぐ(エリタデニン)。
★体の抵抗力が増してガンなどになり難い。エイズ、B型肝炎の発症予防に効果がある (レンチナン)。
★性ホルモンに良く似た物質を多く含み、精力増強に役立つ。
★コレステロールを下げる働きがある。
★ノンカロリーでビタミン、ミネラルを多く含むためダイエットに最適。
★ビタミンをたっぷり含んでいるため、皮膚の血行を促し肌を美しくする。
★二日酔いの頭痛や吐き気の緩和。
★ニンニクやニラなどによる口臭の予防。
★猛毒ダイオキシンを分解する(木材腐朽菌)。
―文責 西川栄郎―