国産のエサにこだわった興農ファームの赤身牛肉
2000年8月2週号
興農ファームの代表、本田広一さんは現在日本有機農業研究会の幹事をされています。1976年に知床半島の付け根にある標津町の現在の地に入植し、始めた酪農はミルカー(搾乳機)の不良事故によって1990年に断念せざるをえなくなりました。その事情は興農ファーム基金の協力を呼びかけさせていただいたときにご紹介した通りです。これをきっかけに肉牛生産に全面的に切替え、今日に至っています。ホルスタインの雄の未去勢牛を、国内産の材料ほぼ100%という、安全性において国内最高といえるエサで育てています。
自慢の発酵飼料をオルター大阪の会員に説明する本田広一氏
たっぷりの牧草と国産材料の発酵飼料興農ファームの牛肉
興農ファームは北海道標津町にあり、スタッフ約20名の農場です。牛は約1600頭飼っています。めざしてきた牛肉は安全でかつ大衆的なものです。牧場は120町歩。チモシー、イタリアン、オーチャード、クローバー、アカクローバーなどの牧草を植え年2回、刈っています。化学肥料を全廃して17年目になります。しかし、牧草の収量はむしろ年々アップしてきています。春と秋に堆肥を散布しています。牧草は与え放題にした上で飼料用には発酵飼料を与えています。
発酵飼料の材料はほとんど100%近く国産のものを使用しています。(肉牛としては国内最高)発酵飼料の材料はくず米、米ぬか、酒カス、もみがら、(第1胃の刺激材料として)、くず小麦、ビートカス、麦ワラ、(近くの農家で堆肥と交換に入手)などです。スーパーのやさいくずや残飯などは安全性に問題があり、使用しません。発酵菌は地元の菌をさがして利用しています。水は堆肥をもとに、BMW(バクテリアミネラルウオーター)の技術で活性水にして与えています。肉牛はホルスタインの雄牛、未去勢を使います。ホルスタインを育成するのは北海道の条件からであり、、未去勢牛を使うのは、
①問題となっている女性ホルモン剤を投与していない証し
②増体効率がよく若齢肥育が可能
③脂肪の少ない赤身牛肉になる。
脂肪の多い肉は健康上も供給したくないからです。
生後10日目から保育→育成→肥育して 16ヶ月~17ヶ月で出荷します。
とくに工夫してきたのは内臓、とくに強い胃の牛を作ることです。現在の市場価値が黒毛和牛、さしの入った脂っぽい牛肉というものに向いている時代に全く常識はずれにホルスタイン、それも雄、ましてや未去勢牛なのです。しかし、熟成段階で、これがなんとおいしい牛肉になっているのです。現在の飼い方は広い開放系の舎飼いですが、一部アンガス牛(肉専用種)を山に年間放牧を始めています。
最新のO-157対策
解体屠場は1996年2月にオランダのシステムを国内第1号として導入した北見畜産公社です。O-157騒ぎの起こる前からO-157や狂牛病チェック体制を国内で始めた屠場です。食道結索、直腸結索を行い、O-157の原因は完全にシャットアウトしています。屠殺から抜肉まで一度も肉に手をふれることなくフックに吊るしたままで地面にもおかずドライ方式で水は骨髄の洗浄に最小限度用いられるだけの落下菌の繁殖の心配もないシステムです。雑菌の増殖をカットしているため抜肉段階でもドリップが全く発生しません。この北見畜産公社で屠殺、解体、ブロック熟成その後ー45℃に急速に冷凍し、興農ファームでスライス、パック詰めを行います。多少堅さがあるがこれが本物の証し。ミンチやすじ肉はとくにすぐれものです。
一般の牛肉の問題点
国内生産されている牛でも、飼料がポストハーベスト農薬、遺伝子組換農作物など輸入穀物が主に使われます。また食品業界の廃棄物も使用されます。また過密飼い、不健康な飼い方をするため、動物医薬品、飼料添加物(1200種以上の薬品が許可されています)など薬漬けの畜産となっています。そのため、市販肉は脂っぽく、化学薬品臭を発するものとなっています。店頭に並べてある肉を美しく見せかけるために、ニコチン酸アミドをスプレーしている可能性がありますが、現在これは法律違反になっています。スーパーなどでは店頭で古くなった牛肉のリパックやたれにつけた加工を施したりしています。
輸入の場合でも、日本向けに同様な濃厚飼料で育てられていることが多く、また以下のような重大なケースも起っています。
狂牛病
1996年3月20日、イギリスの厚生大臣は人のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)と牛の牛海綿状脳症(BSE)の関連の疑いを認めました。当初、イギリス政府は牛肉の輸出産業を保護するため、BSEは「人に感染しない」としていましたが、リーズ大学リチャード・レイシー教授はBSEに感染している牛の肉を食べた場合、潜伏期間5~30年くらいでCDJが発症することを指摘しました。現在までの死亡被害の数はまだまだ少数ですが、1980年後半に感染した人々の被害が爆発的な発症する可能性を予想し、2010年には毎年50万人規模の死亡被害を予想しています。
このため、1997年にはイギリス全土で350万頭の牛が焼却処分され、焼却炉に入りきれない牛が牧草地に野積みされ焼却される風景がみられました。多くの農民が生活不安で自殺しています。このため、ヨーロッパ、ニュージーランド、シンガポールは輸入をやめました。このBSE牛肉の日本への侵入の恐れについては、直接のルートはないようですが、ニュージーランド、オーストラリア経由の可能性があり、日本でも散発的ですがファミリーレストランや安い焼肉店で輸入牛肉を食べた人の中から発症する人がいると心配されています。対策としては輸入物の牛肉や牛肉加工品に手を出さないことです。
CJDの初期症状はアルツハイマー症と似ていますが、やがて脳がスポンジ状になって死亡するという病気です。原因については「プリオン」という脳の蛋白質分子に変性をひきおこすものと考えられています。加熱にも消滅せず、母や子へも感染すると考えられています。BSEが拡がったのは牛乳の搾乳量を増やすために、合成ウシ成長ホルモンの注射を牛にするのですが、この高分泌乳量を維持するために、高蛋白飼料を与えることが必要となり、草食獣であるはずの牛に、羊の狂牛病「スクレイピー」に感染した羊肉をレンダリングプラント(畜産解体・再生工場)で飼料に再生加工したものを食べさせたためであるとされています。
O-157
堺市の学校給食を食べた子供のうち9000名以上の病原性大腸菌O-157感染被害が発症し11人が死亡しました。原因は畜産の汚水で汚染したかいわれだいこんを洗わずに調理したためと考えられています。
O-157は1993年にアメリカでJack-In-The-Boxファーストフードチェーンのハンバーグを食べて4人が死亡した事件で発見されました。汚染源は牛・豚・鶏の糞中にあるO-157の菌が屠場で解体時に使うナイフに付着し、その汚染したナイフからさらに食肉を汚染し、その食肉からまないたや生野菜へと汚染が移行していくものと考えられています。
O-157のような弱い大腸菌がそもそもはびこるのは、現代の畜産が不健康な飼い方になり化学薬品漬けになっているからだと考えられます。したがってO-157に対する根本的な解決は微生物を利用するオルター大阪の生産者のような有機畜産をして、健康な畜産を行うことです。
万が一、O-157に感染した場合は、オルター大阪で扱っているような、まともなヨーグルトや緑茶を食べれば、病原菌には血便程度でおひきとりねがえることです。誤って病院で抗生物質を投与されたら、O-157がベロトキシンを放出し、腸、腎、脳の毛細血管に血栓ができるHUS症を引きおこすので危険です。
オーストラリア牛肉の農薬汚染
1987年、アメリカでDDT、ディルドリンに高濃度に汚染があるオーストラリア牛肉がみつかったことがあります。日本でも、オーストラリア牛肉よりクロールフルアズンという農薬に高濃度の汚染がみつかり、大手流通が取引停止にしたことがありました。原因は牛に綿花のからを食べさせたためで、この綿花には害虫の脱皮抑制剤としてクロールフルアズンを使用していたためでした。
アメリカ牛肉の女性ホルモン汚染
ヨーロッパでは女性ホルモンを含む畜産品を食べた子供の異常成熟が問題となり、アメリカからの女性ホルモン汚染牛肉を輸入禁止にしています。アメリカはこれを不服として世界貿易機構WTOに提訴しています。
女性ホルモンは牛が早く肥り、脂肪がつきやすくなるように使われていますが、これが残留した市販の肉を食べている女児は初潮が早まり(正常では16才、現在では9,10才が珍しくありません)、その結果、将来老化も早まり、寿命も短くなります。また乳がんになる危険も大きくなります。男児の場合、女性化が起きます。
―文責 西川栄郎―