赤ちゃんも安心して飲める幻の阿波番茶
1999年9月3週号
徳島県の山村、相生町で作られている世界でも珍しいお茶、阿波番茶。名前に「番茶」とついていますが、いわゆる煎茶などを収穫したあとの2番茶、3番茶という意味はありません。
阿波番茶に関する記載は一般のお茶の本の中などでもほとんどありません。しかし、研究家の中では、世界に誇れる貴重なお茶と知られているものです。阿波番茶は中国から日本へお茶が伝来した当時のままの製法、後発酵茶として今も作り続けられているもので、同様な製法はミャンマーで確認されているくらいです。ウーロン茶、紅茶、高知の五色茶などと比較的近い発酵茶の仲間なのです。
阿波番茶は一般の緑茶と違って、新芽ではなく成長したお茶の葉を原料とするため、もともと農薬をかけるお茶ではありません。製法上始めから無農薬なのです。また乳酸発酵しているため、カフェインやタンニンなども分解され、赤ちゃんにも安心して飲ませられるものです。とくに風邪をひいて、脱水状態をおこしかけているようなときの水分補給に最適で、ひきつけを防いでくれます。また整腸作用にも優れています。死を迎えた病人が、他の飲み物を受け付けなくても、阿波番茶だけは飲めるという不思議なお茶なのです。
昔は徳島では、くせがなく水がわりに毎日飲まれたお茶だったのです。しかし、一見豊かな時代の中でいつしかこの貴重なお茶が忘れられようとしています。
清水さんの阿波番茶 もちろん無農薬です。
かつて相生町では200軒以上の生産者がいました。しかし、今では清水さんを含めて10数軒となってしまいました。その生産者の中でも清水さんのお茶が一番おいしいと思います。
それは、
①茶によくあった土壌と日光
②今なお昔ながらの製法をかたくなに守っておられること
③代々住みついている発酵菌がおいしい味を守っているからだと思います。
『阿波番茶の製法』
●阿波番茶に使われるお茶の樹は、他の茶所のような「ヤブキタ種」でなく、中国から伝来した当時のままの「原種」です。
●5月頃の新芽ではなく、茶葉が成長した頃、7月の初旬に摘み取ります。枝から残らず全部の葉を小枝ごとむしり取るようにしごいて取り、木は丸裸になります。昔は茶摘みさんをたくさん雇えたが、今は大変少なくなり家族総出の仕事になっています。
●収穫した茶葉は釜に沸かしたお湯に通して(約10分)、お茶の酵素を止めます。葉のアクを抜き、柔らかくする効果もあります。この時大量の水と薪が必要ですが、谷から湧き出る水と山の木でまかなえるのです。薪でなく、ガスバーナーを使う人も出てきていますが、どうしても香りのない製品になってしまいます。
●次に練る機械で茶すりをします。これによって葉のしんが柔らかくなることと、お茶の成分を引き出す効果があります。
●この茶葉を乳酸菌が住みついている大樽にぎっしりつけ込み、重石をして最低2週間ほど発酵させます。
●発酵が十分になった頃、樽から出して、もう一度練る機械でよく茶葉をさばきます。それをムシロの上に手でよく茶を練りながら、広げていくのです。そして、真夏の太陽のもと天日干しをします。
●この作業は早朝からしますが、昼頃よく乾燥させるために、さらに3~4回手で練りながら広げ直すのです。天候の良い日は2日で干せます。しかし、山間部の天候は変わりやすく、にわか雨に悩まされます。出したり、しまったりの慌ただしい、天候の変化に目の離せない作業です。
●これを選別し、袋つめをすると出来上がりです。最初から最後まで入念な手作業の連続で、食品というより伝統工芸品のレベルのお茶なのです。
『阿波番茶の入れ方』
やかんのお湯が沸騰してきたら、軽くひとつまみ入れ(入れる量は好きなように、気に入った濃さをお楽しみ下さい)、一度おさまった沸騰が再びしてきたら、それで火を止め、放置しておけばよいのです。
・熱いまま飲んでもよい。冷えたものを再度温め直すと少し渋味が出ます。
・常温に冷めたものを、そのまま飲んでも。一般のお茶は翌日まで放置していると腐敗することがありますが、阿波番茶は翌日になっても乳酸菌のおかげで、変質しません。昔、茶ガラをお棺の中に防腐剤として入れていたくらいです。
・冷蔵庫で冷やして飲んでも。
・少し濃いめに作って紅茶のようにレモンやすだちを入れても。
◆阿波番茶の保管
紙袋のまま常温で1年保管できます。他の生産者の場合、梅雨明けに多少変質することもありますが、清水さんのは品質がよく、保存がよくききます。阿波番茶の4人家族の1年分は約1kgです。今年は限定150kg。清水さんに確保して頂いています。注文が多い場合は、量目を調整させて頂きます。もし、少量単位をお試しされたい方は光食品にティーパックに小分けしたものがあります。但し、別の生産者のものです。
―文責 西川栄郎―