いよいよ草地酪農牛乳へ、まずはStep1。

2009年7月5週号

 

開発のキーワードは、草地放牧・国産飼料・健康な牛。酪農生産者といっしょにつくる牛乳。

●草地酪農牛乳へのstep1 
 よつ葉乳業は2009年7月27日到着便の牛乳から、「草地放牧」「国産飼料」「健康な牛」「酪農生産者といっしょにつくる牛乳」をキーワードに新しくリニューアルした牛乳「STEP1」の製造を開始します。これまでの非遺伝子組み換えの飼料を与えている29軒の酪農家の中から、このキーワードによりふさわしい自給飼料の給餌率の高い生産者を優先し、まず19軒の生産者に絞り込み、生産者指定をより明確にします。
 これは、私たちがよつ葉牛乳の共同購入運動を始めた当時からの目標である「安全なエサと飼い方」に近づけるためのさらなる一歩となります。Step1ですから当然Step2、Step3があり、今後さらに酪農段階、工場段階の安全性や品質の向上に取り組んでいきます。さらにはバターやチーズなどの原料もよくしていきたいと考えています。
 19軒の生産者の中には、よつ葉乳業へ出荷している酪農家の中でも私が最も評価する幕別町の高野英一さんがいらっしゃいます。高野さんは5~10月放牧、冬期はグラスサイレージを与えています。エサの自給率は81%とたいへん高く、輸入の非遺伝子組み換え作物にもほとんど頼っていません。高野さん以外にも私が評価する酪農家が何人かいますが、まだまだ自給率を高めていただいたり、質を上げていただかなくてはいけない酪農家もおります。

●成分無調整の牛乳の登場
 よつ葉牛乳の社会的登場は1972年、関東の消費者団体が「自然な大地」のイメージの北海道牛乳として共同購入を始めたことがきっかけでした。その後、関西、中部へと運動の輪が拡がり、私も徳島で1976年からその共同購入活動を始めました。
 当時、水俣病を始め公害が社会問題化し、有吉佐和子著「複合汚染」も話題になり、食品公害に関する社会的関心が極度に高まっていました。乳業界においても明治ヤシ油混入事件(1971年)、森永ヒ素ミルク中毒事件(1955年)が起こっていました。また大手乳業メーカーの還元乳・加工乳のニセモノ牛乳全盛の時代にあって「放牧され、農薬の汚染の少ない成分無調整の北海道牛乳」のデビューは、消費者に鮮烈な印象をもって受け入れられたのです。
 
●北海道酪農民の悲願
 よつ葉乳業が十勝で誕生したのは1967年のことです。当時乳価は大手乳業メーカーの主導によって決められ、農民は弱い立場に置かれていました。そんな中「適正価格の形成」と「酪農経営の長期安定」を目指して十勝管内の8農協のリーダーが協力して「農民の手による、農民のための乳業工場」実現のために立ち上がった「北海道協同乳業株式会社」が、よつ葉乳業の前身です。
 
●パスチャライズ牛乳の普及
 私たちがよつ葉牛乳の共同購入運動を始めて間もなく、森永乳業と灘神戸生協(現コープ神戸)は流通の合理化のため、滅菌して長期間保存できるロングライフ(LL)ミルクの開発に乗り出しました。さらに当時の厚生省は乳等省令の「要冷蔵」規定を撤廃し、このLLミルクの普及に手を貸そうとしました。
 このような動きに対し、私たちよつ葉牛乳を共同購入する団体は協力して、LLミルクは・安全性に問題がある・乳質が悪くなる・日本の酪農を亡ぼす、としてLLミルク反対の運動に取り組み、LLミルクの市場流通に大きな歯止めをかけました。
 それと同時に、本来牛乳はパスチャライズ牛乳であるべきことを社会に訴えました。パスチャライズ牛乳とはカルシウムやビタミンなど乳質を損なわない低温長時間殺菌法(Low Temperature Long Time、63℃30分殺菌)もしくは高温短時間殺菌法(High Temperature Short Time、72℃15秒殺菌)のことです。問題は、私たちが共同購入していた当時のよつ葉牛乳もLL牛乳と同質の超高温滅菌牛乳(Ultra High Temperature、120℃2秒殺菌)だったのです。
 私たちのこの訴えに呼応してよつ葉乳業は、たいへんゆっくりとした歩みでありましたが、まず「85℃15秒殺菌」へ、さらに1983年に「72℃15秒殺菌」を実現しました。

●ノンホモ牛乳の実現
 パスチャライズ牛乳が実現すると、次は「ホモジナイズ」が問題となりました。UHT滅菌牛乳製造時に滅菌機の乳石発生などの原因とならないように行われる「ホモジナイズ」は、心筋梗塞や脳梗塞の原因のひとつになることが分かったのです。
 パスチャライズ牛乳のような低温域での殺菌温度条件下では、クリーム粒子に含まれる「キサンチンオキシダーゼ」という酵素が失活していません。それをホモジナイズして、未消化のまま腸壁から体内へ吸収されやすくしてしまうと、その「キサンチンオキシダーゼ」は心臓や脳に多く含まれるリン脂質を酸化し、血管壁にへばりつくような脂肪酸にしてしまうため、心筋梗塞や脳梗塞の原因となるおそれがあるのです。
 そのため私たちは、ホモジナイズ処理を行わない「ノンホモ牛乳」を1988年に実現しました。

●非遺伝子組み換えのエサに
 さらに遺伝子組み換えが社会問題になると、1999年には「非遺伝子組み換え牛乳」を実現しました。
 しかし、非遺伝子組み換え飼料とはいっても、現実は、輸入のエサに頼る構造がそこにあるということで、私たちが求めてきた「自給的な」「草を食べる」「健康な牛」の理想とは必ずしも一致していませんでした。また北海道十勝の酪農も私たちが共同購入を始めた頃のような「放牧」の姿も見られなくなり、牧場には輸入のエサを入れる濃厚飼料のタンクが目立つようになっていました。多頭化、機械化、大型化が進み、離農する酪農家も増えていきました。それとともに農薬や化学肥料の使用も進んでいき、かつて私たちが問題にしてきた近郊酪農と質的に何ら変わらない近代化酪農の状況に近づいていました。

●農薬、狂牛病の心配のない牛乳へ
 そのため私たちは、牛が草を食べて健康に育つという当たり前の酪農に立ち返るように、粘り強くよつ葉乳業やホクレンとの交渉をこの6年来積み上げ、やっと私たちの主張に添った改革への合意がなされたわけです。
 この背景には近年の輸入穀物の相場の乱高下にみられるような飼料環境の危うさや、狂牛病で肉骨粉の飼料への混入が問題となったことなど、生産者側にも私たちの主張に理解を示す素地ができつつありました。
 よつ葉牛乳が私が良しと思えるような牛乳になるためにはまだまだ多くの難関があります。しかし、関西、中部、関東のよつ葉牛乳共同購入団体がスクラムを組んでいること、よつ葉乳業、ホクレンもその存続をかけて協力的になっていること、酪農生産者にも私たちと呼応する動きが出てきていることなど、次のステップへ進んでいける状況にあると思っています。

よつ葉乳業のよつ葉牛乳
■生産者
JA音更1戸、JA鹿追9戸、JA士幌2戸、JA忠類4戸、JA幕別3戸の全19戸です。この19戸の氏名はすでに明らかにされていますが、その公表は現在準備中です。この中に牧草が主体でほとんど濃厚飼料に頼らない幕別の高野英一さんがいますが、その他の酪農家全てがその水準というわけではありません。

●ノンホモパスチャライズ牛乳
 ホモジナイズ処理をしていません。殺菌条件はパスチャライズ処理(高温短時間殺菌法・HTST、72℃15秒殺菌)です。クラリファイヤー(遠心分離機)でゴミを除去する以外に成分をさわらない成分無調整牛乳です。これがよつ葉牛乳の中では一番おすすめです。

●HTST(ホモ)牛乳
 ホモジナイズ処理をしています。ホモ牛乳の食味に慣れ、どうしてもノンホモ牛乳が飲めないという人のためにやむを得ず取り扱いをしています。心臓病になる心配のある牛乳です。

●低脂肪牛乳
 生クリーム分を遠心分離で低く調整した牛乳です。生乳に脱脂粉乳など乳製品を加えた「加工乳」ではなく、生乳のみでつくる「部分脱脂乳」ですが、牛乳本来のあり方がクリームラインに損傷を与えないという考え方からすると、邪道の牛乳といえます。しかし、無知な医者などが「牛乳を飲むなら低脂肪牛乳を」と勧めている現実があって、なにか良い牛乳と勘違いしてる消費者が増えています。それならば市販のエサや飼い方が悪い低脂肪牛乳より、あえてよつ葉の低脂肪牛乳を扱ったほうがましとの判断での取り扱いです。腸の健康を考えるとそもそも乳製品を控えるべきで、牛乳を飲むのが問題なら良質のものを少量たしなむ程度にしたらよいと思います。

―文責 西川栄郎(オルター代表)―

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