無農薬で寒冷地農業
2009年10月4週号
これから旬を迎える北海道の根菜類、
そして冷涼な気候を活かした夏場の軟弱野菜にも期待。
●農薬中毒が無農薬農業へのきっかけ
オホーツク海の寒冷な気候をまともに受ける北海道北見市常呂町において、内海登・福恵ご夫妻は無農薬で農業に取り組んでいます。
高温多湿な本州で野菜が作りにくい夏期に、冷涼な気候を活かしてキャベツやハクサイなどの軟弱野菜が栽培できることが強みです。花作りにも向いており、やがて無農薬の花を出荷していただけないかと話をさせていただいています。
内海登さんが無農薬栽培に取り組んだきっかけはご自身のご病気と、桜井食品の社長さんとの出会いです。農薬を使って農業を営んでいた頃、玉ねぎ振興会の仲間10人のうち2人が亡くなり、1人は片足を壊疽で失いました。ご自身が肝臓を冒されたのも殺虫剤などの農薬が原因だと考えています。そのため農薬をやめようと道を探していたとき、桜井食品の桜井芳明社長と出会い、その契約農家となることで無農薬栽培を始めることができました。
桜井食品はオルターへスパゲティーやラーメンなどを提供いただいている生産者です。ちなみに桜井食品の国産スパゲティー(「食べもの百科」P128参照)の原料として、内海さんの小麦が使われています。
●微生物の助けを借りて無農薬に
常呂町での農業は内海さんのお父さん・秀雄さんが1934年に入植して始めました。内海登さんは高校を卒業してすぐの1964年から農業に就きました。現在は農業はじつに楽しいとおっしゃっていますが、当時は家の事情があっていやいや継がれたとのことです。
1966年に桜井食品との出会いがあって、1986年に一部の畑を無農薬にできました。体を壊したのは1968年、それをきっかけに徐々に農薬の使用を減らしていきました。1997年には農薬の使用を完全にやめることができました。畑にはクモやテントウ虫が戻ってきています。
無農薬栽培を可能にしたのは発酵微生物(酵母)の利用です。今年は自然農業で使う天恵緑汁の考え方で、ヨモギなどの青草を黒砂糖で発酵させた自家製の青草汁も試されています。
農薬からは脱却された内海さんですが、化学肥料はごく一部ですが残念ながらまだ使われています。オホーツク海の影響を強く受ける寒冷地のため、春先に植え付けをする小麦などの作物の初期生長のためだけに、どうしてもまだ化学肥料が手放せないでいます。使用量は通常の1/3の量です。わずかではありますが化学肥料を使った場合、本来的には有機農業とは呼べません。このことは内海さんもよく理解され、これまでにも使わないようにと試行錯誤を重ねてこられました。今後の課題です。
オルターへの内海さんの紹介は、奈良よつ葉牛乳を飲む会の清水章子さんからです。
内海登さんの無農薬野菜(オルター栽培基準☆)
■栽培面積
露地16.4ha、ハウス0.6a。常呂川の肥沃な沖積土壌です。
■栽培品目と出荷時期
じゃがいも(9月上旬~翌年6月)
大豆(通年)
小麦(通年)
玉ねぎ(8月下旬~翌年3月)
にんじん(8月末~12月)
赤カブ(10月下旬~11月下旬)
キャベツ(7月下旬~12月)
ハクサイ(7月下旬~12月)
カボチャ(8月下旬~12月)
■防除
万田酵素(万田31号)(※)を植物の活力剤として使用。根の張りをよくして植物の健全な生育をはかり、病害虫から作物を守ります。
※オルターでは推奨していません。オルターとしてはBMW技術への転換をアドバイスしています。
自家製の天恵緑汁を使用。虫の抑制に使っています。ヨモギなどの活性の高い青草を黒砂糖発酵し、木酢液と混合して使用します。
一切の化学農薬、除草剤の使用はありません。
■肥料
小麦ワラ(自家製)、米糠(国産・南竜町)、ぼかし肥料(国内有機)発酵鶏糞、コフナ有機(鶏糞主体、馬糞)、緑肥(えん麦と大豆くず)
春先に植え付ける作物の初期生長に通常の慣行農業の1/3の化学肥料(※※)を使用。
※※オルターでは原則として化学肥料の使用は認めていません。
―文責 西川栄郎(オルター代表)―