国産では珍しいライ小麦粉
2009年11月4週号
特有の甘味、風味があっておいしい粉です。工夫して料理のバリエーションに。
●おいしい甘味が特徴
北海道常呂町の畑作農家4代目の宇野義明さんは、国内では大変珍しいライ小麦を栽培しています。
ライ小麦粉は薄力の小麦粉よりグルテン含有が少なく、そのままでパンやクッキーにするのは難しいのですが、アミラーゼ活性が小麦粉の300倍と高く、奥ゆかしい甘味が特徴です。風味、もちもち感のある歯ごたえもたいへん優れており、珍しいことから、まさに“幻の味”といえます。そのままで小麦粉(全粒粉)と同じように使ったり、小麦粉やライ麦粉と混ぜてアレンジパンに使うなど、工夫して使えば料理のバリエーションを豊かにすることができます。
●国内唯一の栽培者
ライ小麦は、ライ麦でも小麦でもありません。約60年前ポーランドでライ麦と小麦をかけあわせて作られた新しい品種です。ポーランドは寒涼乾燥の地で小麦を栽培しにくいことから、品種改良されたそうです。農薬や肥料に頼らなくても栽培しやすいのが魅力で、世界的にはアフリカを中心に栽培面積が増えています。
日本では独立行政法人 農業食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センターが15年前にライ小麦の試験栽培を開始・研究し、生産農家を募集しました。宇野義明さんはその際に名乗りを上げた生産農家の一人です。現在ではほかの人たちは栽培をやめているようです。今回オルターで企画するライ小麦粉は、現在手に入る唯一の国産ライ小麦粉のはずです。
●異常気象で栽培に苦労
宇野さんはこれまでライ小麦を13年間栽培してきて、5回失敗しています。原産国のポーランドはライ小麦の栽培に適した寒涼乾燥の地ですが、北海道常呂町の場合、8月中旬の収穫時期に雨が降るのが問題になります。今年も温暖化によると思われる日照不足と長雨で、北海道農業はさんざんな被害を受けていますが、宇野さんのライ小麦も予定の1/3しか収量がありませんでした。
このような苦労をしてまで宇野さんがライ小麦を作り続けているのは、「ここで自分がや めてしまえば、国内では誰も作らなくなってしまう」というonly oneの使命感と、畑の緑肥や牛の飼料用としては優れていること、北海道内のこだわりのパン屋さんやレストランが使ってくれていて、消費者にも少しずつ認知され始めていることからです。自分自身が食べるためという理由もあります。「やめるときは種がなくなったとき、麦が決めてくれる。それまではやめるのが惜しい」と思われています。
消費者団体の取り扱いとしてはオルターが初めてになります。現状では量的にはまだまだ限定的ですので、スポット的にしか取り扱えません。需要が伸びれば栽培面積を増やしていく予定です。
宇野さんは、カタログ2009年10月4週でご紹介した内海登さんのまさにお隣で、オルターへは内海さんからのご紹介です。かつて神野でんぷんさんからも、宇野さんのじゃがいもをでんぷん原料に使っている関係でご紹介いただいていました。
宇野義明さんのライ小麦粉(オルター基準◆)
通常の国産小麦(慣行栽培)よりも農薬・化学肥料がはるかに抑えられていますので、小麦粉の代替として注目しています。
■栽培方法
じゃがいもー大豆ーライ小麦を輪作しています。じゃがいもは無農薬無肥料。大豆には殺虫剤1回の使用あり。ライ小麦の防除は、秋蒔き小麦で越冬させるので冬枯れ防除のため殺菌剤(フルアジナム)を1回使用。種子消毒はしていません。除草剤(トリフルラリン)は使わないときもありますが基本的に1回使用。肥料は過去に米ぬかを3年に1回使ったことがありますが、これからは使用しない方針です。
■製粉
江別製粉で、試験的に特別に小ロット製粉しています。
■使い方
小麦に適当に混ぜてお使いください。ライ小麦粉、ライ麦粉、強力粉を合わせて使うCC'Cookingイタリアンブレッドのレシピ(P2~3)もご参照ください。
■ライ小麦茶
オルターから紹介した奈良月ヶ瀬の竹内茶園の砂釜で、ライ小麦の麦茶を作っています。大麦などのようないがらっぽさもなく、甘くてたいへん美味で、とくに水だしにするととてもおいしいです。この麦茶で焼酎を割るとたいへんまろやかでおいしくなります。今年は収量不足のため残念ながらライ小麦茶の企画はありませんが、来シーズンは製品化され次第、カタログでご紹介予定です。ぜひおいしいライ小麦茶を味わってみて下さい。
ライ麦・ライ小麦・小麦の特性 ワンポイントレッスン
文責 山本朝子先生
(CC'Cookng主宰・オルター副代表)
ライ麦にはグルテンを構成するグルテニンがないため、発酵により発生する気泡を閉じこめる力がなく、膨らみのない重いパンになります。しかし、発想の転換でその特性を生かし、たまご油脂なしで健康パンを焼かれることをおすすめします。一方、繊維質が多いこと、ビタミンB類、ミネラル、アミノ酸のリジンを多く含むこと、保湿成分は高いことで、固いパンという汚名を挽回できるだけの優秀性を持つともいえます。小麦粉を混ぜて焼くと膨張性を持たせることが可能です。また、ライ小麦はこのようなデメリットをカバーする意味で改良された品種です。
―文責 西川栄郎(オルター代表)―