自家牧場から一貫生産の乳製品

2009年12月4週号

 

牛にやさしい牧場の牛乳から自前の小さな加工プラントで、いろんな乳製品を作っています。

◆珍しい乳製品プラント
 北海道上川郡清水町のあすなろファーミング(村上勇治社長)の牛乳・乳製品は、「やさしい草の香りがする」と評判です。
 あすなろファーミングは、自然生態系農法で牛を育てる自家牧場の原乳から牛乳・乳製品に加工する、町の小さなプラントです。自家牧場の牛乳を処理するプラントは各地に少しずつ増えてきましたが、牛乳だけでなく生クリーム、ヨーグルト、バターなどの乳製品まで加工している自家牧場のプラントはたいへん珍しいといえます。

◆自然生態系牧場
 あすなろファーミングに原乳を提供しているのは2つの牧場です。社長の長男・村上博昭さんの村上牧場と専務の梶山一幸さんの梶山牧場です。
 両牧場とも飼い方は乳牛にストレスを与えないよう、夏は昼夜放牧をしています。朝夕搾乳のときにだけ牛舎に入ってきます。冬期は昼間はパドック、夜間には牛舎で過ごします。牛たちは可愛がられているので、人なつっこく、好奇心旺盛です。
 牧草地には農薬や化学肥料を一切使用しません。無農薬無化学肥料にしてから22年経っています。糞尿は堆肥にして牧草地に返しています。堆肥の酸度調整には沖縄のサンゴ粉末を使います。冬期のエサとして牧草をロールレラップサイレージにして貯蔵しています。草以外に比較的少量の穀物を与えています。大麦圧片(カナダ産)、小麦圧片(北海道十勝産)、アマニ粕(アメリカ産)、フスマペレット(カナダ・スリランカ産)、米糠(国産)、ビートパルプ(北海道産)、糖蜜(タイ産)です。遺伝子組み換え作物は使っていません。

◆乳質にやさしい加工
 牧場と加工プラントの距離が近いので、搾乳は昔ながらの牛乳缶へミルカーを使って直接搾乳します。ミルクラインを使わない分、乳質へのダメージが少なく、洗浄も簡単です。
 加工プラントはライン化せず手作業の多い、たいへんシンプルなものです。複雑な工程がなく、乳質にやさしい処理が可能です。牛乳は63℃30分の低温殺菌、ノンホモです。
 乳製品は食品添加物を使わず作っています。乳製品には種類がたくさんあり、オルターとしてそれらの原料すべてがOKというわけではありませんので、アドバイスを始めています。

◆ドイツの牧場をお手本に 
 村上勇治社長が国内では珍しい自家牧場から一貫生産の乳製品作りを始めたのには、モデルがありました。25年前にヨーロッパ旅行をした際、ドイツでドッテンホルダーのオーナーに出会い、カルチャーショックを受けたのでした。ドッテンホルダーではオーガニックの牛乳、チーズ、ヨーグルトの牧場・加工・販売の一貫生産を行っており、販売は売りに行くのではなく、消費者が買いにきてくれるのです。ショップは無人で、お客さんはマイボトルに自分で入れます。当時ホクレンにただ牛乳を出荷していただけの自らの姿とあまりにも違っていたことに一念発起した村上さんはまずオーガニックを志し、さらに1991年には加工工場を実現しました。北海道で牛乳プラントを作ることは、農協やホクレンの圧力があって、たいへん困難なことです。そんな圧力に耐えてこられたのです。
 オルターとの出会いは、神戸消費者クラブの前迫志郎さんからの紹介や、草地酪農の研究会などでの交流などがありましたが、会員からの「あすなろファーミングの生クリームが食べたい」という声が決め手でした。

あすなろファーミングの牛乳・乳製品
●酪農 
 村上牧場は面積60ha、経産牛50頭、育成牛40頭。梶山牧場は面積35ha、経産牛30頭、育成牛20頭。牛の平均年齢は4歳前後。一般のように無理な搾乳をせず、1日20リットルを越えないようにしています。そのため長い期間搾乳を続けることができ、5~7産の牛がいます。
 牧草には農薬・化学肥料を使いません。自家製の糞尿と一部鶏糞(白老の種鶏農場)を堆肥にして、牧草地に戻しています。堆肥の酸度調整に沖縄のサンゴ粉末を使っています。
 青草のある時期は1日1頭当たり青草25~30kg(エサの95%)と、わずかなフスマと小麦圧片(いずれも北海道産)だけです。冬期は乾草10kgが中心。乾草は自家採草地の牧草をロールしラップサイレージにしています。1~2月の厳寒期はその他、大麦圧片(カナダ産)、小麦圧片(北海道十勝産)、アマニ粕(アメリカ産)、フスマペレット(カナダ・スリランカ産)、米糠(国産)、ビートパルプ(北海道産)、糖蜜(タイ産)を1日5kg与えています。
 抗生物質は与えていません。ワクチンは1年に1回行っています。五種混合(IBR、BVP-MD1型・2型、パラインフルエンザ3型、RS-ウイルス、アデノウイルス)。

●放牧
夏は昼夜放牧。冬は昼夜パドック、ただし厳寒期は夜間牛舎に入れるときがあります。

●搾乳
ミルカーを使って昔ながらの牛乳缶へ搾乳します。工場へは牛乳缶で運びます。

■牛乳
原料:自家製原乳

・製造工程
①牛乳缶で輸送し、ステンレスメッシュで濾過
②PAS釜(蒸気の二重釜)で低温殺菌・63℃30分、ノンホモ
③二重釜で40℃へ冷却
④プレートクーラーで5℃へ冷却
⑤充填機で充填(洗浄は分解して手洗

■低脂肪牛乳
原料:自家製原乳

・製造工程
①生乳を加温(40℃)し、生クリームを分離した脱脂乳と生乳を合乳する
②殺菌63℃30分
③冷却
④濾過
⑤充填

■無糖のむヨーグルト
原料:自家製原乳、乳酸菌(デンマーク、ブルガリア・サーモフィラスの混合菌)

・製造工程
①原乳を90℃10分殺菌
②冷却
③乳酸菌添加
④充填

■プレーンヨーグルト
原料:自家製原乳、乳酸菌

・製造工程
①原乳を90℃10分殺菌
②冷却40℃
③乳酸菌添加
④充填
⑤発酵

■あすなろヨーグルト
原料:自家製原乳、乳酸菌、ビート糖(ホクレン)、脱脂粉乳(よつ葉乳業)

・製造工程
①原乳を殺菌・90℃以上
②ビート糖、脱脂粉乳添加
③冷却40℃
④乳酸菌添加
⑤充填
⑥発酵

■手造りバター
原料:自家製原乳、深層海水塩(北海道)

・製造工程
①原乳を35~40℃加温
②分離
③殺菌85℃以上
④冷却4℃
⑤エージング
⑥加温(湯煎12~14℃)
⑦チャーニング
⑧水洗い(11~12℃で3~5回)
⑨加塩
⑩ワーキング(練り上げ)
⑪充填

■生クリーム
原料:自家製原乳

・製造工程
①原乳を35~40℃加温
②分離
③殺菌85℃以上
④冷却4℃
⑤エージング
⑥充填 

■生キャラメル(ミルク入り・塩入り)
原料:あすなろ生クリーム、自家製原乳、ビート糖、無塩バター(あすなろ製)、
塩(赤穂の天塩(塩入りのみ))

・製造工程
①牛乳を殺菌95℃10分
②ビート糖添加
③再殺菌95℃10分
④生クリーム、無塩バター添加
⑤加熱(塩入りはこのあと塩添加)
⑥充填
⑦冷却
⑧カット
⑨包装

―文責 西川栄郎(オルター代表)―

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