現代にますます輝く古式三年醸造醤油
2008年2月5週号
原料は、国産原料と塩と清流の伏流水のみ。
自然に任せた古式三年醸造。
何にでもよく合う、やさしい味です。
●すべてが人の手による古式製法
丸中醤油は、契約栽培の国産大豆・小麦を原料に、現代ではたいへん珍しくなった自然に任せた昔ながらの古式醸造で醤油を育てています。仮に電気が止まったとしても、殆ど製造に影響を受けないで造り続けることができるレベルです。
鈴鹿山脈に源流を持ち琵琶湖に流れ込む愛知川。その岩魚が棲み鮎が泳ぐ清流の、そのまま飲める伏流水を濾過して醤油を造っています。その水を杉樽に注ぐのも人力。桶でかついで入れています。塩を溶かす工程は、ここ以外ではまずお目にかかれない「塩吊り」。むしろの袋に塩を入れ、樽の水の中に3日つけて溶かすのです。できたもろみを搾るのは「舟搾り」、麻袋にもろみを入れ、舟形の水槽で万力で手搾り。どこまでもエコロジーなのです。
三年かけて自然発酵させた、やさしい味
丸中醤油は滋賀県湖東地区にあります。夏は盆地のため蒸し暑く、冬は雪の多い寒冷地。陸路要所と発酵に適した環境で、二百年間醸造が栄えてきました。和歌山県や千葉県のような温暖地と異なって発酵がゆっくりなので、満足のいく味にするために満三年の醸造を行なっています。
ゆっくりと時間をかけることにより、自然の恩恵を受け、たいへんおいしい醤油ができています。味がやさしく、京風、関西風の料理はもちろん、何にでもたいへん使いやすい醤油です。テレビの「どっちの料理ショー」に8回出場して全勝した醤油です。
●蔵頭の指導の下、伝承の技を引き継ぐ
丸中醤油は江戸、寛政末期創業。八代目の現社長・中居真和さんの祖父、六代目の故・中居金次郎さんからのお付き合いです。
戦時中、政府の指示で醤油を代用品(牛の毛や血などのアミノ酸)で製造した時代があって、金次郎さんは早く元の姿に戻したいと口癖のようにおっしゃっていたとのこと。その間も樽が乾燥しないよう蔵を維持するためにたいへん気を遣われていました。戦後、物資が豊かになり、やれやれと思い伝統的手法に戻せたのですが、世間一般は三ヶ月で温醸して作るアミノ酸醤油の方へ走ってしまったのです。食品公害が大きな問題になった昭和40年代になって、金次郎さんが守ってこられた、この伝統的な造り方の正しさを確信されたのです。そうして、滋賀県の団体から紹介を受け、私たちとのおつきあいが始まり、関西を中心にその良さを認める輪が広がって、息子さんたちも家業に戻ってこられたのでした。
蔵頭は村西志郎さん。金次郎さんの四男で、真和社長の叔父さんです。スタッフに若い担い手が増え、これからますます楽しみな醤油蔵です。
原料/製造方法
●原料
大豆…滋賀県・西田拓夫さん、垣谷奨さんのタマホマレ(白大豆)。
小麦…愛知県・菱川喬夫さんの農林61号。
塩…オーストラリア天日塩
水…愛知川伏流水
●製造方法
蒸煮した大豆と炒って割砕した小麦を混合して、醤油麹(大豆と小麦の原料をもち込んで麹を作ってもらっている)を入れ、製麹室で3日寝かした後、塩水を加え、この醪(もろみ)を自然醗酵によって3年間熟成させています。市販品で三年ものとはふた夏もの、すなわち夏~夏の1年半くらいのものの事ですが、ここでは満三年寝かしています。樽は杉樽が1/2、角桶(杉板を張ったもの)が1/2です。
醤油を寝かす三年間、ただ放置しておけばよいのではありません。竹製のカイ棒で醪を攪拌しなければならないのです。冬場は7~20日に1回でもよいのですが、夏はほぼ毎日、この櫂入れという手入が欠かせません。これがたいへんな重労働なのです。出荷時には醪を圧搾で生揚醤油に搾り、さらに殺菌(80℃前後。火入れ時間は時期や状態により異なる)をしています。冷却後、珪藻土で濾過をしています。
調味料、着色料、防腐剤などの食品添加物を一切使っていません。温醸(加温)もしていません。
市販の醤油の問題点
最近コマーシャルで宣伝している丸大豆醤油でも、まず原料の大豆、小麦に問題があります。大豆(ポストハーベスト農薬、遺伝子組み換え)、小麦(ポストハーベスト農薬)、塩は工業用にイオン交換法で精製された公社塩(高血圧の原因)。
実は大手メーカーは丸大豆でなく、原料代が安く、速醸ができコストの低減のできる脱脂加工大豆を使っているのが一般的。n-ヘキサン抽出した大豆油の搾りカスを使用。このようなうまみの抜けた原料ではおいしい醤油が作られるはずがありません。しかも、加工脱脂大豆では長期醗酵に耐えることができませんので、加温処理をする温醸でわずか3ヶ月程度で醸造してしまうのです。
当然、うまみがないので、調味料の登場となります。そこでグルタミン酸ソーダ(脳障害)、イノシン酸や蛋白加水分解物(人毛などを劇薬を使って加水分解するため、3MCPD、発ガン性が確認されている)が新式醸造と称して使われます。
また、水飴(ポストハーベスト農薬、遺伝子組み換えのとうもろこしの加水分解物)も使われます。また、速醸では色も浅いので、カラメルなどで着色(発ガン性の心配)を施すのです。また市販の淡口醤油は、日東醸造の白しょうゆやカメビシの淡口仕込み醤油のように最初からその製品をめざして仕込んだ品ではなく、上述のような濃口醤油をだしや塩水で薄めて作るため腐りやすく、安息香酸のような毒性の強い防腐剤も使われるのです。
かくして、ミネラルウォーターよりも安い低品質の目玉商品の醤油がスーパーに並べられることになります。しかし、安いというのは単なる見かけ上だけであり、このような塩水に黒く着色したものを料理に使っても色か塩味がつくくらいで、いわゆる醤油の香り、風味がなく、使用量も多くなるため、かえって割高になる醤油です。またコスト低減のため、環境ホルモンの溶出してくるプラスチック容器入りなのです。わずか3ヶ月で溶出してくる成分で醤油に異臭が出てくるほどのものなのです。
調味料は本来それ自体がおいしいもので、少し使うことによって料理の香りや味を引き立てるもののはずです。おいしくない市販の調味料に、存在意義があるのでしょうか。
―文責 西川栄郎(オルター代表)―