たいへんおいしい山羊ミルク
2008年4月2週号
山羊乳独特のくせを抑えた、おいしい山羊ミルクです。離乳食にも適しています。
●母乳が育児の基本
ハチミツを食べた赤ちゃんが、ハチミツに含まれるボツリヌス菌によって死亡したケースからわかったことですが、赤ちゃんの腸の構造は大人の腸とは違い、かなり大きな成分も通過させます。それは免疫グロブリンのような大きな蛋白粒子を含む母乳を採食するという前提があるからです。したがって赤ちゃんに母乳以外の食べものを与えることは厳に慎まねばならないことで、とくに母乳以外の蛋白質を含む食べものは、アレルギーなどの原因になるので避けなければなりません。また果汁なども、腸内細菌相があっという間に悪玉菌優位の大人の汚い腸のようになるので要注意です。
元東大医学部・西原克成医学博士によると、赤ちゃんの腸は生後1才半くらいからやっと大人のそれに近くなり、完成するのは4才半くらいということです。西原先生は2才半まで母乳だけで育てるよう勧めておられます。昨今の女性の社会進出を考慮しても、1才~1才半までは母乳だけの育児を死守されるべきではないかと思います。
●やむを得ない母乳の代替に、山羊乳を
それでも、母乳が出ないなど、やむを得ない理由で代用乳が必要になる場合があります(母乳が出ないと思っている人でも適切なアドバイスがあれば母乳育児が可能な場合がありますので、念のためあきらめずにオルターにご相談下さい)。西原先生は「母乳の代替には粉ミルクを」とおっしゃっていますが、私としては下記「市販の粉ミルクの問題点」で指摘するように、お勧めできないものと考えています。
これまでオルターでは幸い中洞牛乳のような良質な牛乳があるので、やむを得ない母乳の代替には牛乳を、とアドバイスしてきました。しかし牛乳にも、西原先生ご指摘のように、成分粒子が赤ちゃんに適切でないという問題があります。
そこで「粉ミルクか牛乳か」という皮相な議論ではなく、西原先生にも提案させていただいた上で、より理想的な山羊乳の開発をすべきだと考えました。将来は使いやすい山羊乳の粉ミルクを開発することを目標に、まずは生の山羊乳という形で、今回より供給を実現しました。
●成分が母乳に近い山羊乳
山羊乳は母乳に近い成分を有しており、現実的に入手可能な代用乳としては最適です。
牛乳を飲むと消化不良や下痢を示す人や幼児でも、山羊乳ではこうした症状を示さないことがあります。山羊乳は牛乳と比べて乳中の脂肪球が小さい、胃内で形成される凝乳が軟らかい、乳蛋白質が消化されやすくアミノ酸が吸収されやすい、牛乳中にあるアレルギー物質α-S1-カゼインという蛋白質が含まれていない、β-ラクトグロブリンの化学的・物理的構造が牛乳とは異なりアレルギーの心配が低い、結核菌や牛流産菌(ブルセラ菌)がほとんど存在せず衛生学的な危険性が小さい、コレステロール調節・糖尿病性網膜症による視力障害を緩和することが示唆されるアミノ酸代謝物タウリンが牛乳の20倍含まれる、など、医学面でも山羊乳の効果が注目されています。
唯一、乳幼児に与える場合に問題となる葉酸欠乏症(貧血)の指摘がありますが、それは飼料の問題で、オルターがご紹介する乾牧場のように十分に葉酸豊富な牧草を食べている山羊乳にはその心配はありません。
●国内トップクラスの山羊乳
北海道中標津町の乾牧場・乾洋さんは、堆肥を中心に少量の化学肥料で牧草を作り、夏に3~4日間かけて乾牧草にしたものを主体に、国産ビートパルプ、非遺伝子組み換えの配合飼料と少量のミネラル・ビタミン剤、鉱塩を与えて山羊乳を出荷しています。国内的にはすでにトップクラスの品質です。しかしオルターから見て、まだ不適切不必要な飼料がありますので、早急に改善をお願いしています。幸いすぐ近くにオルターの牛・豚の生産者、興農ファームがありますので、その改善に協力していただきます。
また季節分娩のため、1月~3月は山羊乳を出荷できない時期がありましたが、ホルモン剤を使わないで通年供給できるよう検討をお願いしています。
乾牧場は1943年、洋さんのお父さんが始めた牧場です。今も酪農を営み低温殺菌牛乳の出荷もしています。山羊は洋さんが獣医である阿部武丸さんから「山羊はいいよ、めんこい。小さいので飼いやすいし、ふん出しも半年から1年でいい」などと勧められ、牛の展望も厳しい中で2002年の秋から飼い始めました。
当初は病気の対策などわからないこともあって苦労しましたが、現在では技術的にも自信ができ、山羊ミルクの専用ラインを作って、息子の純さんも参加。国内海外からの研修生も受け入れています。
山羊乳は牛乳と比べてはるかに生産効率が悪く、たいへん貴重なものです。そのためどうしても高価になり、売れ行きがよくありませんでした。乾さんは山羊乳のよさがわかる消費者を求めておられます。世界的には広く利用されている山羊肉も、日本では高級レストランなどの利用しかなく、乾さんの山羊肉の有効活用も、良質な山羊乳の安定確保のためには重要なテーマです。
乾牧場を紹介していただいたのは、「全国山羊サミット」を企画している全国山羊ネットワーク事務局を担当されている鹿児島大学農学部・中西良孝先生です。
乾牧場の山羊乳「しれとこヤギミルク」
■飼い方
牧場面積43ha(牧草39ha、防風林4ha)で120頭、うち搾乳山羊40頭を飼育しています。これまでの搾乳シーズンは季節分娩のため4月~12月頃でした。オルターへの通年供給に向けて工夫をお願いしています。もちろんホルモン剤の使用なしです。
青草をそのまま与えると山羊乳独特の青くささが出るので、乳酸発酵させた乾草を与えて育てています。搾乳中はゆったりとした牧柵の中、肉用肥育期間は放牧しています。
■エサ
●乾牧草…自家産。肥料は有機質堆肥、化成肥料は極力抑えています。この乾牧草が主体で1頭当たり約2kg/日。その他、●△non-GMO配合飼料…αフレッシュ18号を約800g~1kg/頭/日。●ビートパルプペレット…北海道産〔北海道糖業(株)〕を約100g~200g/頭/日。●△マグリン…ミネラル混合飼料。リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルファルファミール、米ぬか、食塩、酸化マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸コバルト、ヨウ化カリウム。約5g/頭/日。●△マイグローブFF…微生物発酵飼料。有用微生物、米ぬか、小麦胚芽、糖蜜、ゼオライト。約10g/頭/日。●△ビタミン頭脳…小麦粉、ふすま、エクストルダー処理大豆、とうもろこし、ホミニーフード、コーングルテンフィード、ジアスターゼモルト、糖蜜、サッカロミセスセレビシエ酵母、石化海藻、ガーリック、ビール酵母、食塩、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、飼料用酵母、ビタミンA・D8・E・B1・C・B2・B6・B12・K8、ニコチン酸、パントテン酸、葉酸、ビオチン、硫酸コバルト、硫酸マンガン、硫酸鉄、硫酸亜鉛、硫酸銅、ヨウ素酸カルシウム、×エトキシキン。約2g~3g/頭/日。●△鉱塩…黄色酸化鉄、ミニ酸化鉄、硫酸銅、硫酸コバルト、硫酸亜鉛、炭酸マンガン、ヨウ素酸カルシウム、亜セレン酸ナトリウム、ビタミンE、食塩。ごく少量。
△印は今後改良をお願いする飼料です。
■加工ライン
ノンホモパスチャライズ山羊ミルク。スウェーデン製ヤギ専用搾乳パーラーでバケットミルカーへ搾乳。濾過して乳缶に入れて冷蔵庫へ。パスチャライズ殺菌(LTLT 65℃30分)し、足踏み充填機で充填。
■赤ちゃんへの哺乳は
母乳が出ないためやむを得ず山羊乳を与える場合、42℃にして、ヌーク社哺乳ビンで与えてください。ミルクが出過ぎる哺乳ビンは赤ちゃんの成長にとって適切でありません。
市販の粉ミルクの問題点
市販の粉ミルクには、①ポストハーベスト農薬や動物医薬品の問題がある、エサや飼い方が粗悪な牛乳が原料になっている②森永ヒ素ミルク中毒事件の背景となった、鮮度の古くなった原乳を使う体質が今も変わっていない③強化剤、調味料、乳化剤などの名目で40種類以上の食品添加物が使われている(ビタミン剤も自然のものとは違う化学構造のもの)④滅菌が困難な粉ミルクにはEnterobactor sakazaki(坂崎菌)のおそれがある、など問題があります。
坂崎菌は中枢神経に感染し、髄膜炎や脳腫瘍などを発症させ、発育遅延や水頭症の後遺症を残すのもので、死亡率が40~80%と高いものです。2004年FAO/WHO合同の国際食品規格委員会では、この菌を「公衆衛生上の深刻なリスク」として各国へ緊急勧告を出しています。
山羊乳を原料とした粉ミルクもありますが、国産のものがなく輸入品です。そのエサや飼い方などの情報が入手できず、評価できていません。
母乳が赤ちゃんの成長に果たす役割は単なる栄養や安全面だけではありません。哺乳時に吸引することで、口輪筋が鍛えられて知能が発達すること、情緒の安定などによいこともわかっています。人工栄養はそのような機会を奪うことで、赤ちゃんの健全な成長を妨げることになります。
―文責 西川栄郎(オルター代表)―