近海もの生マグロは 一味違います
那智勝浦港に揚がった近海もの生マグロを、最高の鮮度で活き締めし、サクどりした希少な品。
生マグロは甘くおいしく、色もちも優れています。
●生マグロの目利き一筋、29年
和歌山県那智勝浦港は、近海もの生マグロの水揚げが全国一盛んな港です。生マグロはこのほか気仙沼、塩釜、銚子などでも水揚げされています。
大井水産の大井一郎さんは初代で、マグロを扱って29年目になります。親の代は魚の卸売業だったのですが、一郎さんの代になってからは地元の勝浦魚市場でマグロ一筋に買い付けし、スーパーなど量販店に出荷されるようになったのでした。
大井さんは「マグロは一匹一匹、品質に違いがあるところが面白い」とおっしゃいます。マグロを扱うには目利きが大切です。セリで見られる尻尾の断面の身から、鮮度、色、肉質、身の締まり、色もちなどを判断しなければなりません。1日でだめになる魚から、5日はもつものまであり、この道29年の目をもってしても目利きに失敗することもあるそうです。プロの目利きができるようになるには10年の経験が必要で、大井水産でも目利きの腕がある人は2人しかおられないそうです。
●甘くおいしく、色もちも上々
国内で流通するマグロの主流は、世界中の広い海域で漁獲直後に丸ごと冷凍され、清水港、焼津港などで水揚げされる冷凍マグロです。これら冷凍マグロは堅い皮のまま冷凍されるため、内圧が生じて身の細胞破壊が起こり、水っぽく味が落ちます。
これに対し、生マグロは細胞破壊がないので色もちがよく、甘くおいしいのです。大井水産のマグロは、活き締めの最高の鮮度の生マグロです。安かろう悪かろうの魚は扱わないプライドを大切になさっています。この生マグロの価値をわかる消費者が増えてほしいものです。
大井水産の行っている生マグロのサクどり(大きな魚を三枚におろし、血合いを取り除いて扱いやすい大きさにする)も珍しいことです。高いサクどり技術をお持ちで、15人の従業員のうち、7人が魚をさばけます。
●日本沿岸の生マグロよ、いつまでも
今マグロは国際的ににわかに脚光を浴びています。これまであまり食べることのなかった中国や韓国で急激にブームが拡がり、また欧米でもヘルシーシーフードということで人気が高まり、国際的ぶんどり合戦が始まっています。日本船のお古を使っていた韓国や台湾も最近は船の装備をアップしてきています。また、乱獲防止を理由に漁獲制限圧力が強まっています。
マグロはもともと年によって漁獲量がかなり上下するものでしたが、さらに目の離せないものになっています。いつまでも貴重な日本の沿岸の生マグロを守りたいものです。大井水産のオルターへのご紹介は、共同畑研究会「色川」の城正さんでした。
大井水産の生マグロ
日本沿岸の生マグロ漁の最盛期は12月~5月です。2~3日で帰港できる近海・沿岸で、高い技術のある小型延縄(はえなわ)漁船で漁をします。延縄は40kmあり、30~40m間隔で1500個の釣針がついています。獲れたマグロは、海水と真水と氷を混合し、凍らない程度の氷点下で保存します。鮮度のよいのが特徴です。甘くておいしく、色もちも優れています。主な魚種は「ビンチョウマグロ」「キハダマグロ」「メバチマグロ」です。
勝浦港で朝7時にセリがあり、そこで目利きして仕入れたマグロを毎日さばいて出荷します。オルターへの入荷は毎日です。流通は氷温で行います。薬品の使用はありません。
生マグロを扱うのが困難な時期(6月~11月)には、生マグロをサクどりして-40~50℃で冷凍貯蔵した品を扱う事があります。市販のような漁獲直後からの冷凍品ではないので、味落ちしていません。
●市販のマグロの問題点●
世界中の広い海域で大量に漁獲されたマグロの殆どは、漁獲直後に冷凍されます。皮付きの丸のまま凍らせると、中の身が膨張して細胞破壊が起こり、 ドリップの原因となります。水っぽく味がなくなり、解凍すると黒くなってしまいます。以前は全漁獲高の97%を占めた冷凍マグロが最近は70%に落ち、生マグロが30%になっています。この生マグロは天然ものではありますが、外国のマグロ船のものが殆どです。日本船ほど設備が良くなく、取り扱いも丁寧でないため、味には大きな違いがあります。中には空輸されてくる養殖マグロもあります。
養殖マグロはイケスの中でエサを与え、1年で200gから30kgに成長させます。そのため飼料添加物や動物医薬品が使われ、危険なだけでなく、脂身が多く身も締まっていません。養殖マグロは安いことから、スーパー、生協、回転寿司のネタなどにされています。養殖は国内では串本、宇和島、奄美大島、本部(沖縄)で行われています。外国ではスペイン、クロアチア、オーストラリア、ロサンゼルス(アメリカ)などで行われています。
マグロは冷凍か生か、養殖か天然ものかで差があるのはもちろんですが、もうひとつ、漁獲時に生きて揚がるか死んで揚がるかでたいへん品質が異なります。死んでいたものは身が焼けて白くなり、これは最低ランクのものです。
変色防止剤、酸化防止剤の薬品使用の問題もあります。冷凍ものでも安心できません。昔は船凍時から使われていました。国内では冷凍技術の進歩であまり薬品を使用しなくなったようですが、アメリカからくるものは今でも油断ができません。
こうして見ると、薬品を使わない鮮度のよい近海もののマグロをサクどりしたものが、いかに貴重で、市販品とは全く違うものであるか、お分かりいただけると思います。しかし、マグロにそんなピンからキリまであると知らない消費者の前では、冷凍ものの低価格ものに押され、まともな生マグロの魚価が低迷しているのが現実です。
ー文責 西川栄郎(オルター代表)ー