農薬を極力減らしたりんごです
2007年10月2週号
異常気象との闘いに苦労され、やむを得ず無農薬から「低農薬」になりました。
●食べものは、おいしくて安全で栄養がなければ
白鳥農園は標高900m、中央アルプスの麓の長野県伊那市にあります。夏冬・昼夜の寒暖差の大きい、りんご栽培に大変よく向いた栽培環境です。白鳥農園のりんごの木は葉が厚く、丸みがあり、葉脈も揃っていて、葉色も健康的です。草との共生がよく考えられていて、土もよく肥えています。りんご園を初めて訪ねた際、その栽培技術の高さに感心しました。
白鳥さんのりんごの切口は市販のりんごのように褐変することなく、ミネラルが多く、抗酸化力に優れた作物であることがよくわかります。もちろんおいしさには定評があります。
白鳥博さんは戦後、微生物の専門の会社の研究員として農業指導をしてこられました。1980年頃、自らも農業者となり、伊那谷有機農法(信濃式)の仲間の指導を始められました。そのときは仲間50人で出発しましたが、うち8人は今も残っています。白鳥さんのモットーは「食べものはおいしくて安全で、栄養がちゃんとなければいけない」です。
●一昨年までは無農薬。やむを得ず農薬を使用しました
白鳥農園のりんごの栽培水準は、一昨年まではオルター基準で「☆☆(JAS有機の水準)」でしたが、今年も雨の多い異常な気象に見舞われ、やむを得ず、栽培を始めて以来使わなくてすませてきた化学農薬を使用したため、残念ながらオルター基準で「◇(低農薬)」となりました。一昨年までは全国で2本の指に入る貴重な無農薬のりんごでしたので、残念なことになりました。それでも他の生産者と比べて、たいへん農薬を減らしている貴重なりんごです。
白鳥博さんは、日本有機農業生産団体中央会の認定による「無化学肥料減農薬栽培」の認証を取っておられます。今年のような異常気象などでやむを得ず農薬を使わなければいけなくなったとき、後で「有機」の看板をはずしたりしたくないという理由で、もともとの控えめな表示をなさっていました。
地球温暖化の影響とみられる異常気象の下で、長野県にある白鳥さんのりんご栽培にとっての試練が始まっています。私たち消費者側の応援や理解がますます求められることになっています。
●頑固親父の思いを、息子が引き継ぐ
白鳥農園のりんご園は、明治頃に先代が始めておられますが、戦時中にはアルコール用のサツマイモを作らされたため、1943年に一時りんごの木を切られたことがあるそうです。白鳥博さんが1978年にりんごの植付けを復活なさって、現在に至っています。
1998年からは息子さんの昇さんも栽培に参加され、さらにパワーアップなさいました。昇さんは身体が弱かったため、農薬を使うことに抵抗を感じていらっしゃり、「農薬をなくしていくのは、自分の身体のためだ」とおっしゃっています。
オルターとの出会いは平山理恵子会員からのご紹介で、2003年秋からりんごをいただき始めました。夏場はトマトやスイートコーンも出荷いただいています。
白鳥農園のりんご
化学農薬は必要最小限にとどめ、化学肥料は一切使用しない、化学薬品での土壌消毒をしない、除草剤を一切使用しない。そのための技術的ポイントは、土壌菌の働きを考えた有機肥料を投入しての土作りはもとより、ミネラルの活用の重視、草との共生、天敵利用などです。
草作りが一つのポイントです。草の種類によっては深く根を張ってくれるものがあり、耕すことになります。イネ科の植物には納豆菌、ヨモギにはペニシリウム菌がいて、微生物のバランスに役立ちます。草は土の覆いとしても役立っています。草を作って微生物や昆虫が増え、天敵のエサになってくれます。草作りをしないと有機農業ができないといっても過言ではありません。ハーブも含め、年間40種類は草を作ることを考えておられ、不足すれば種子を蒔くくらいです。除草剤散布などもってのほかなのです。ローター機などを使って地面をかき混ぜるようなこともしません。
草刈りは草刈機を使って年6回行い、草丈を3~4cm残します。刈った草はそのままその場に置き、繊維質やリグニンの供給源とします。繊維質は微生物のエサとして一番大切なものだからです。土作りのため、白鳥農園では大雨の後でも水溜りがなく、普通靴でりんご園に入れるのです。
摘果に際しても、薬剤を使用した摘果は行わず、全て手作業で行います。収量は一般の半作程度で、どうしても一般よりコスト高になってしまいますが、それでも安全を求める人にはおすすめです。
白鳥農園のりんごは、ゲルソン療法、甲田療法などに使うジュース用としてお使いいただけます。ペクチンを多く含有しているので、りんごパイ作りにもとくにおすすめです。なお、酵素が多く自己消化を起こしやすいので、冷蔵保管をおすすめします。
●品種と栽培方法
●品種
つがる、ジョナゴールド、紅玉、王林、ふじなど。
●栽培方法
肥料
完熟堆肥(抗生物質などを使わず飼育している、仲間の養豚業者の完熟した豚糞オガ粉発酵堆肥。土の中に鋤き込まず表面に置く)、かに有機、魚粉(5種。微生物のエサとし、蛋白質を補給)、魚骨(主としてカツオの骨。ゼラチン質として。狂牛病の心配な牛骨粉は使っていません)、発酵カツオ、イカなど煮汁エキス、グアノ(コウモリの糞)、麦飯石と貝化石とゼオライトとキーゼライト(ミネラルの供給、水の活性化に役立っています)、米ぬか、ソバガラ、落葉、馬糞堆肥
防除
通常は、生薬、イオンカルシウム、石灰硫黄合剤、灰汁、ボルドー液だけですが、今年は雨が多く、病気(褐斑病)対策にやむを得ず下記の化学農薬を使用しています。
殺菌剤アントラコール顆粒水和剤1回、殺菌剤アンビルフロアブル1回、殺菌剤スコア顆粒水和剤1回、殺菌剤バルノックスフロアブル1回、殺菌剤ジマンダイセン1回(一般の平均のべ使用回数37回)
市販のりんごの問題点
意外と気が付かないかもしれませんが、アメリカから日本へは生食りんごの輸入があり、ポストハーベスト農薬が使われています。トラックにカゴ積みされたりんごへ農薬を直接散布する設備がある程です。
国内産りんごにも農薬がたくさん使われます。年間十数回、使用農薬のべ30種類くらいが散布されています。特にフジを無袋栽培する「サンフジ」は、日光に当たって育つイメージで人気ですが、袋がけによる物理的な病虫害の防除ができないため、かえって農薬の使用量は増えます。手間のかかる袋がけをしないで農薬に頼る、このようなりんご栽培が一般的なのです。また、袋がけをしても、あらかじめたっぷりと農薬をしみ込ませた袋を使うのが一般的です。
出荷に際して、或は店頭で、保存性を高めるためのワックスがけがあります。もともとりんご自体、天然のワックスを分泌するものですが、発がん性の心配がある人工的なワックスが使用されているりんごを皮のまま食べるのはやめるべきです。
―文責 西川栄郎(オルター代表)―