千年産業の壮大なロマンを持った有機農業
2007年10月4週号
有機米、有機大豆、有機小麦、有機大麦などを作り、農産加工にも取り組む。まさに百姓のお手本。
●「自己完結循環型農業」を目指して
金沢農業の井村辰二郎さんは、「自己完結循環型農業」を目指して、金沢市の河北潟で有機農業に取り組んでおられます。その経営面積は米20ha、有機大豆108ha、有機小麦・大麦100ha、牧草10ha、その他雑穀、野菜、果樹など2.2haとおそらくは国内最大規模の有機農家です。うち60haは2002年までに有機認証を取得なさっています。また、豆腐、味噌、醤油、麦茶、小麦粉など自家栽培の原料を使った農産加工にも精力的に取り組んでおられます。
井村さんの大豆を、オルターでは豆腐の生産者・尾崎食品、あらいぶきっちんや湯葉弘の湯葉、末広昆布の昆布豆の原料としても使わせていただいています。小麦は金子製麺でうどんの原料になっています。
井村さんは、大学の農学部を卒業した後、一時サラリーマンになり、その後脱サラなさっています。バブル経済の崩壊とともに、多くの産業において存在自体が矛盾を起こし始めていることを見てとり、農業こそ未来永劫の産業であると考え、「自然回帰」をキーワードに「千年産業」を目指して、環境保全型農業に着手なさいました。
●百姓魂で、国際価格にチャレンジ
河北潟干拓地(1390ha)は、もともと米を作る目的で計画された干拓地で、その後、水田事業から畑作に計画を移行したところです。ラムサール条約(湿地保護)に登録されてもおかしくないくらい、野鳥や野生動物の豊かな自然のあるところです。その鳥たちや動物たちと共存する優しい農業をなさっています。干拓地の畑の土質はメッシュの細かな泥で、雨が降るとぬかるみ、乾くと石のようにゴロゴロします。必ずしも畑に向かないその大地で、農薬や化学肥料を使わず、生態系に優しい豊かな農業に取り組んでおられます。
有機米は上記の河北潟で栽培。その他、金沢市・内灘町・津幡町では、高齢化で担い手のなくなった耕作放擲地や棚田などを預り、除草剤を1回だけ使用する特別栽培米を作っています。
大豆や小麦には国際価格との価格差や逆ザヤによる価格差があります。そんな国際価格に対して、私たちそれを食べさせていただく側とも協力し合い、敢えて国際競争力をもてるように挑戦していこうという意気込みです。
現代で百姓魂というものを求めるなら、ここにまさにそのお手本がいらっしゃるのです。
金沢農業の有機米・特別栽培米
●品種
飯米用…コシヒカリ(有機JAS)、コシヒカリ・あきたこまち・ひとめぼれ(各除草剤1回のみの特別栽培)
酒米用……五百万石(有機JAS)
●栽培方法
肥料…大豆くず(自家製)、米ぬか(自家製)、鶏糞(自家製など)
除草…主としてロータリー式除草機を使う物理的な方法で行っています。米ぬか除草も試みています。特別栽培米については除草剤1回使用です。
病害虫対策…基本的には粗植にして、多収量にこだわらず、病害虫に強い稲を育てます。株間を通常の30cmより広く、北海道仕様の33cmにし、風通しをよくしています。米の品種、他の作物などの輪作にも心掛けています。化学農薬は一切使用していません。五百万石などの早生種の水田では、稲刈りが終わった後、二番穂が出てきたときに冬季の冠水をして二番穂を好む野生の鴨を集めるという、石川県推奨の「水稲のおとり池」に取組んでいます。その第一の目的は、その時期の麦に対する鴨の深刻な食害を防ぐことですが、水田に鴨の糞を落としてもらう目的もあります。
市販の特別栽培米にだまされないで
お米も海外から輸入される時代です。そのためポストハーベスト農薬が問題となっています。遺伝子組み換え稲の開発も盛んで、これをいかに食い止めるかが課題です。
国内の慣行栽培では農薬が使われています。昔のような急性毒性の強い農薬はさすがに陰をひそめていますが、いわゆる「低毒性の農薬」の毒性が低いわけではありません。強い農薬と比べれば低毒性ではありますが、立派に発がん性、遺伝毒性、環境ホルモン作用、環境ドラッグ作用があります。昔のように10回以上農薬を散布する農家は減ってきて、多くは4回以上程度となっているようです。食味の点からいえば、化学肥料や有機物を多投して収量を上げている米の味は落ちます。
一般国産米市場には、輸入米やひどい場合にはカドミウムなどの汚染米も流れているおそれがあります。なぜなら、原産国・産地偽装、品種詐称などが日常的に行なわれている業界だからです。すなわち、安い米を混米して正体を隠し、分かりにくくしています。
最近一番目立つ手口は、特別栽培米の表示を利用したカラクリです。農薬・化学肥料を使わない有機栽培米には有機認証制度があり、有機JASマークが付けられます。この認証手続きをとっていない米には、無農薬から慣行栽培まで幅広いレベルの米が属します。その中で、その地域の農薬散布基準のおおむね半分以下のものなら特別栽培米と謳うことが認められています。慣行栽培でも、農薬指針の半分以下のお米は珍しくないわけですから、それらは全て特別栽培米と謳えるわけで、事実スーパーや生協などが何のこだわりもない米に特別栽培米を表記し、中には保管時に農薬くん蒸されている古米などを混ぜたものまで堂々と売られています。
よほどの目利きでない限り、一般市場や生協でお米を購入するのはやめたほうがいいと思います。農家による米の直売も増えて、何の根拠もない「ほとんど無農薬」という宣伝文句で売られています。オルターでは、有機米か、もしくは除草剤1回までの特別栽培米が米取扱いの原則です。このようにしっかりと栽培情報を確かめる必要があります。
なお、胚芽米や分づき米は、無農薬でなければ胚芽に農薬が含まれていることと、開封後1~2日で酸化することからおすすめできません。家庭で精米機を購入して、その都度新鮮な分づき米を食されるべきです。無洗米は原料がよくない米が用いられている点、薬品を使って糠を除いている点からおすすめできません。
―文責 西川栄郎(オルター代表)―