椎茸はどれでも原木栽培だと思っていませんか?

2007年11月3週号

 

おいしいのは原木栽培椎茸。健康パワーも期待できます。
その価値を正しく評価して、絶滅から守りましょう。


●「国産原木しいたけ生産者の会」の取り組み

 2006年10月から椎茸に国の表示基準が新設され、「原木椎茸」と「菌床栽培」とが区別されるようになりました。「国産原木しいたけ生産者の会」(井上順一会長)による署名活動などの尽力により実現したもので、法律上ようやくその違いを認めさせることができました。
 井上順一さんを始め「国産原木しいたけ生産者の会」の生産者のみなさんは、農薬やホルモン剤を使わず、コナラ、ミズナラ、クヌギなどの原木を使って椎茸を栽培しています。原木から生える椎茸は形はさまざまですが、たいへんおいしく、心臓病や脳卒中を防ぐ成分エリタデニンの活性も菌床栽培と比べて数倍も豊富です。
 それに対して、おがくずなど培地で育てる菌床栽培の椎茸は、農薬、ホルモン剤、栄養剤などを使っているため、まずくて危険です。しかし、おがくずから楽に発生してくる菌床栽培の椎茸は、見た目の立派なのが穫れ、大量生産がきいて生産効率がいいので、安価で売ることができます。そのため、椎茸の味のわからない消費者に支持されて主流となっています。

●消費者の選択で、原木栽培椎茸を 守ろう

 菌床栽培は、工場から安く購入する軽いおがくず培地を使うため、作業も楽で量産もできます。使い古しの菌床からも形のかわらない椎茸が穫れます。しかし原木栽培は、重たい原木を使うため、運搬、水浸など全ての工程が重労働で、全くコストが違います。原木の入手も難しくなっています。
 1999年、日本の原木栽培の生産者の多くが廃業に追い込まれました。大阪府下でも生き残りはわずか数軒と激減しました。原因は原木椎茸菌が劣化(品種の劣化)し、収量も品質も落ちて、収入が減ったためでした。消費者の多くが原木栽培の椎茸の価値に気づいておらず、輸入物や菌床椎茸と価格面で同列の扱いを受けてきたのです。
 今や、粗悪で危険な薬漬けの輸入椎茸や菌床栽培椎茸がのさばって、消費者にとって安全でおいしかった椎茸がまさに滅びる寸前となっています。原木栽培を守れるかどうかは、ひとえに消費者の選択にかかっているのです。
 オルターへの井上椎茸園のご紹介は、自然栽培きのこに取り組む奈良県野迫川町の川崎昌助さんからです。

井上椎茸園の原木栽培椎茸
井上順一さんは、毎日重い原木を数百本移動、浸水、発生操作等に伴う重労働をされ、安全でおいしい本物の椎茸作りの為に原木栽培を続けられています。
 晩秋から桜の花が咲く直前まで、山に伏せ込んであるホダ木から自然に発生してくる椎茸を山リスが好んで食べにきます。本能的にこの時期の椎茸に養分が特に多い事を知っているのでしょう。乾燥椎茸は、主としてこの自然発生の椎茸で作ります。生椎茸は、以下の手順で原木をホダ木にし、ハウス内で温度管理して発生させます。

●原木
 宮城県・福島県産原木を使っています。15~30年もかけて大自然の中で自然の精を吸い上げて育った広葉樹を90cmに伐採して使います。

●作り方
2月から3月の害菌が活動しにくい寒い時期に、原木にドリルで穴をあけて椎茸菌を植え、穴をロウや発泡スチロールで蓋をしておきます。手入れの行き届いた杉山の中に置くか葦簾(よしず)などで覆い、半年から1年半かけて菌を蔓延させた原木をホダ木といいます。
 こうしてできたホダ木を、オルターの活性水器「ハイパーネオ」で処理した谷水に8~24時間浸水して、発生操作を行います。小指の先ほどの芽を出したホダ木をハウスに移し、適温(15~25℃)にして昼夜の温度差をつけると、7~10日で採取できる大きさに育ってくれます。 冬期には、ハウスの床にお湯を循環させて暖房します。採取が終わったホダ木は、屋外や休養舎で30~50日休養します。このような操作を2年間に7~8回行いホダ木の一生を終えるのです。
井上さんは、味、色、硬さ等おいしいと喜んで戴ける椎茸を作る為、品種や栽培方法など色々工夫されています。勿論農薬、化学肥料等一切の化学薬品を使っていません。

●食べ方
 焼く、煮る、揚げるは勿論の事、サラダ感覚で生野菜と一緒にドレッシングで。軽く湯通し後、酢の物に。炊き込みご飯等、年中の食卓に利用して下さい。菌床椎茸嫌いの子も原木椎茸で好きになります。

●1日1枚!椎茸の素晴らしい効用!
 椎茸の効用については各地の大学、研究機関から様々な研究発表がされていますが、主なものを挙げますと、

★血圧を正常に保ち、血液を詰まりにくくして、心臓病や脳卒中を防ぐ(エリタデニン)。
★体の抵抗力が増してガンなどになり難い。エイズ、B型肝炎の発症予防に効果がある(レンチナン)。
★性ホルモンに良く似た物質を多く含み、精力増強に役立つ。
★コレステロールを下げる働きがある。
★ノンカロリーでビタミン、ミネラルを多く含むためダイエットに最適。
★ビタミンをたっぷり含んでいるため、皮膚の血行を促し肌を美しくする。
★二日酔いの頭痛や吐き気の緩和。
★ニンニクやニラなどによる口臭の予防。
★猛毒ダイオキシンを分解する(木材腐朽菌)。

市販の椎茸の問題点
スーパーの店頭に並ぶ安い中国産の生椎茸は、その水っぽいまずさゆえに一時ほど隆盛ではなくなりましたが、まだ主流です。日本の商社が技術をもち込んで安く作らせているものです。危険な菌床栽培というだけでなく、栽培段階で殺虫剤、殺菌剤を使い、輸入段階ではポストハーベスト農薬もあります。
国内でも主流となった菌床栽培は、数種類のおがくずに椎茸の栄養となる人工的な栄養剤や化学薬品を混ぜ、ブロック状、味噌玉状に固めた合成培地を施設内において3~4ヵ月かけて菌を回し、その後椎茸を発生させる方法ですが、これに関しては使用されているおがくずがまず問題となります。木材にも貯蔵中に農薬が使われます。輸入材には、畑ではとっくに使われなくなったエンドリンやディルドリンのような毒性の強い有機塩素系農薬が使われていることもあります。かまぼこ板のように芯まで漂白剤を使っているものもあるので、おがくずの原料に注意を払う必要があります。
 菌床栽培の床を作るためには、このおがくずだけではなく、おからやふすま、コーンスターチ(いずれもポストハーベスト農薬、遺伝子組み換えなどの問題あり)、化学肥料はもとより、殺菌剤(トルコデルマという椎茸菌の着床を妨げる青・白カビを殺すのにベンレートなどの農薬が使われています)や、ホルモン剤も使われているのです。菌床きのこから猛毒のチアベンタゾール(TBZ)という農薬が検出された例もあります(日本応用きのこ学会誌Vol.7、NO.1)。そして他の作物同様、農薬耐性菌問題などで、ますますその使用量が増加している恐れがあるのです。通常、しいたけ栽培の原木を捨てておくとカブトムシなどが繁殖してくるのですが、市販の菌床ではカブトムシは5年放置したあとの菌床でも養殖できない死の世界というしろものです。
 こうして薬漬けで作られた菌床栽培の椎茸は、形は立派ですがまずく、栄養成分も極端に少なく、鮮度落ちが激しく笠の裏がすぐに黒ずんできます。圃場の水管理次第でいくらでも大きく重たく成長させることができるので、安く見せかけるのも簡単です。とかく見せかけにだまされやすい消費者にとっては、やっかいな相手です。
 良い椎茸は、小ぶりで比重も軽い方がよいのです。井上さんの原木椎茸なら刺身で食べられる鮮度を長く保っています。結局、原木椎茸の方が、おいしくてだしもよく出ますので、経済的でもあるのです。
 ところで、原木栽培なら全て大丈夫かといえば、原木を水槽に漬けるときに、増収をはかるため殺菌剤、ホルモン剤、原木栄養剤が使われているケースもあり、必ずしも安心できないことがありますので、生産者と顔の見える関係があることは、とても大切なことです。

―文責 西川栄郎(オルター代表)―

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