雑穀栽培にチャレンジ
2007年12月2週号
オルターの呼びかけに応え、キビ、ヒエ、アワを無農薬で栽培。
来年以降、さらに増産の予定です。
●貴重な国産・無農薬の雑穀
オルターではかねてから雑穀の大切さを訴え、その利用を勧めてきています。とくに今年は年頭の挨拶でも触れた通り、重点取り組みにもしています。
雑穀は、栽培はそう難しいものではありませんが、収穫以降の工程にたいへん手間がかかり、鳥害、台風害、収穫タイミングの見極めなどリスクが大きい作物です。そのためなかなか国産のものが手に入らず、ましてや無農薬のものとなるとほとんど入手困難な状況です。
アトピー対策を謳っている会社が取り扱っている雑穀はほとんどが輸入品で、ポストハーベスト農薬の問題が解決されていません、アトピーとは腸から入った農薬など脂溶性化学物質が皮膚に代謝・排泄されて引き起こされる病気なので、農薬が使われている雑穀をアトピー対策に使うのは本質的に問題があります。アトピーとは「米を食べるか、雑穀を食べるか」の問題ではなく、「農薬を食べるか食べないか、腸は健康か」という問題なのです。
そこで、オルターとして国産・無農薬の雑穀の栽培を拡げていきたいと生産者に呼びかけています。この呼びかけに、漬物など農産加工に取り組んでいる白鷹農産加工研究会の鈴木雄一取締役(提携部長)が応じてくださいました。
今年の栽培はキビ、ヒエ、アワだけの試験的な栽培で、収穫見通しはそれぞれ200kg(40a)、20kg(3a)、20kg(3a)とまだまだ限定的ですが、来年以降さらに増産をお願いしているところです。
●「原材料の生産から加工、販売まで」がポリシー
白鷹農産加工研究会(浅野淑子代表)はスタッフ13人のグループです。自分たちで無農薬栽培した農作物を原料に、漬物、みそ、ジャムなど多品目の農産加工食品を作り、全国の消費者団体と提携しています。
最上川の流れる山形県白鷹町は、元は養蚕の盛んだった地域で、「何でも作る、何でも食べる」という上杉藩の伝統のあるところです。近年は出稼ぎの町、過疎の町になっています。反骨・自主の精神が自然と根付いたのもうなずけます。
研究会の元の代表・加藤秀一さん(現在は研究会を離れ、しらたかノラの会に所属しています)は、今日まで一貫して減反に反対しています。白鷹農産加工研究会は1981年、減反政策に反対する加藤さん、鈴木さんら村の有志数人によって設立。学校給食、農薬の水田空中散布問題、大規模林道問題にも取り組んできました。
「原材料は自分たちで作ろう」が合い言葉。だからこそ安全の自信があるのです。もちろん農薬や除草剤なしの無農薬栽培。加工用の野菜は全員に割り当てて協同生産をしています。「自分たちで作ったものを、自分たちで売ってみたい」と発足した当時は、農産加工の素人だった人たちが、失敗を乗り越え、今ではプロ以上に良い品物を作れるようになってきました。
白鷹町はとくに秋野菜の産地として恵まれています。かつては冷害の常襲地帯でしたが、昨今の温暖化の影響で、かえって適地化してきているくらいです。白菜なども糖度が高く、肉質が厚く、これらを原料に置賜地方に伝わる伝統食を作っています。これらの独自販売で、出稼ぎなしで生き抜いています。
●白鷹を雑穀のメッカに
白鷹町は、雑穀栽培においても適地で伝統もありますが、加工研究会では有機野菜の栽培や加工が順調だったため、雑穀栽培は頓挫していました。ところが、15年ほど前から近所の農家であわ餅やきび餅の出荷が行なわれ、かつて貧しさの象徴のようだった雑穀入りの餅やご飯が驚異的にごちそうへと脱皮してきました。
鈴木さんも10年ほど前からひそかに雑穀復活を試みていましたが、手どり除草ではあっという間に雑草のヒエと混じり、荒地化し、大雨とともにキビも「志」も倒伏してしまいました。2年目は少し賢くなったつもりで条播きにして、管理機による中耕を行ないました。すばらしい穂が稔り、秋の収穫を待ちましたが、台風で倒伏してしまいました。
そんなおり、80才過ぎのお爺さんグループが、「雑穀、キビで村おこしをしたい」と活動を開始。彼らとの交流で「苗と定植」の作業を体系化し、栽培技術の改良に取り組むことができました。雑穀は、その栄養価や抗酸化力、抗アレルギー力が優秀であるだけでなく、畑への残渣の鋤き込みを通しての緑肥効果が野菜作りにたいへん有効です。雑穀と野菜の組み合わせは土作りにも健全なのです。
水稲の低落傾向の中、白鷹町の生産者の間に雑穀への関心と生産が拡まり、いくつかのグループや個人が散在しています。人間の食料の原点ともいうべき雑穀の復活を通して、新たな農村、農民の再生の夢がふくらんでいます。
白鷹農産加工研究会の雑穀
●種類
モチキビ、ウルチアワ、ウルチヒエ
●栽培方法
農薬、化学肥料を使っていません。発酵豚ふん、平飼い鶏ふん、二年もの牛堆肥、EMボカシ、米ぬか、カキ殻などを工夫して使っています。
①5月中旬~下旬頃、苗箱のペーパーポットに播種
②25日程度で6月中旬頃に定植。水をやりながら植えていく
③7月上旬に管理機で中耕。必要に応じて手取りの除草をする
④7月中旬、追肥と中耕
⑤8月中旬、鳥除けの防鳥糸を張る
⑥9月中旬~下旬、汎用コンバインで刈り取り。シートに広げて自然乾燥する
⑦10月から選別と調整、精白
―文責 西川栄郎(オルター代表)―