エサの安全にこだわった養豚
2006年3月1週号
ハム・ソーセージでおなじみのTONTONから、新たに豚肉の企画を始めます。
自家配合飼料と開放型踏み込み豚舎で、元気に育てた豚肉です。
TONTONの大浦秀樹さんは、安全にこだわった自家配合飼料で養豚をしています。有機農産物での養豚を目指しています。抗生物質やホルモン剤の使用は一切ありません。豚舎は紀州かつらぎ山系の山の中にあり、開放型の“踏み込み豚舎”です。ゆったりとした豚舎で子豚たちが元気なピンク色の肌で走り回っています。
秀樹さんのお父さんの大浦紀和さんは、愛農会で無農薬の野菜やみかんの生産をなさっています。その農産物を食べている消費者団体から「安心できる豚肉が食べたい」と提案を受けたのが、養豚を始めたきっかけでした。秀樹さんは高校卒業後、ノルウェーでアメリカ式の酪農の研修をして帰国したばかりの時で、動物が好きだったこともあり養豚を任されたのでした。
構想から1年後、1982年に母豚18頭、子豚60頭で始めた当時、養豚農家はむしろ廃業していく時代で、周囲からは奇異な目で見られたそうです。しかし、できた豚肉を食べたらそのおいしさに誰よりも秀樹さんご本人がびっくりなさったとのことです。
「こだわりの養豚を理解してくれる消費者とのつながりが、今日のように養豚を軌道に乗せる原動力になった」とおっしゃる秀樹さん。現在では母豚80頭、子豚が800~900頭の規模になりました。オルターからのPHFコーンの導入の提案や配合飼料の改善にいつも真摯に取り組んでいただいています。これまでオルターへはハム・ソーセージだけの出荷でしたが、豚肉としても出荷できる余裕ができました。
TONTONの命名の由来は、豚ではなく、肩たたきの音だそうです。肩をたたいてあげるときのように、人を思いやる心を忘れずに、いつも食べていただく人のことを考え生産に取り組むという思いを込めていらっしゃいます。昨年からは愛農高校を卒業した娘の直美さんも手伝っています。
TONTONの豚肉
●豚の種類
アイスランドアイリッシュ(もち豚ともいわれています)の雌とランドレースの雄をかけ合わせて生まれた雌に、デュロックの雄をかけ合わせた子豚を肥育します。
●飼料
有機JAS100%に切り替えるのが目標です。現在給餌している単味飼料は、
とうもろこし…アメリカ産ポストハーベストフリー(PHF)、非遺伝子組み換え(NON-GMO)
大豆…アメリカ産PHF、NON-GMO
大麦…オーストラリア産PHF、NON-GMO
魚粉…国内産トロールミール(酸化防止剤含む)。
母豚と離乳食のみ。
貝化石…福島県産(商品名ミネゲン)
海藻粉末…ノルウェー産(商品名アルギン)
貝殻焼成カルシウム…広島産(商品名ナーリン)
酵母菌、乳酸菌、枯草菌…(商品名バイオミックス)
岩塩・リン酸カルシウム(リンカル)・リオターゼ(酵素)・アルファミール
以上を自家配合しています。配合は以下のように体重別に3段階に分けて配合します。抗生物質やホルモン剤は一切使用していません。
スターター(子豚用)…とうもろこし、大豆、魚粉、貝化石、海藻粉末、貝殻焼成カルシウム、酵母菌、乳酸菌、
枯草菌、塩、リオターゼ(酵素)、リンカル
前期…とうもろこし、大豆、貝化石、酵母菌、乳酸菌、枯草菌、塩、リオターゼ(酵素)、
リンカル
後期…とうもろこし、大豆、大麦、貝化石、貝殻焼成カルシウム、酵母菌、乳酸菌、
枯草菌、海藻粉末、リンカル
種豚…とうもろこし、大豆、アルファミール、魚粉、酵母菌、乳酸菌、枯草菌、貝化石、海藻粉末、塩、
リオターゼ(酵素)
一般に自家配合豚といわれている豚肉でも子豚のミルクや飼料等は一般のものを使用していることがほとんどですが、TONTONでは「それでは意味がない」と考え、子豚用も自家配合しています。これが一番苦労されていることです。一般飼料はたくさんの防腐剤が入っているため傷むことはないのですが、自家配合飼料はそうはいきません。特に子豚の飼料には気を遣わなければなりません。たくさん生まれても母豚から離乳後、飼料が傷みがちになり子豚がたくさん死んでしまいます。今生まれた子豚を死なさずに育てていけるように取り組んでおられます。
成長に必要なミネラルは天然のものを使用し、海藻粉末や鉱物粉末を与えています。あと、ビタコーゲンという酵素と木酢精製液を加えて配合しています。飼料の中に木酢精製液と活性炭を加えることによって飼料をアルカリ性にし、豚自身も健康になり、豚肉も弱アルカリ性でより一層おいしく安心して食べられます。母豚の成績も良く悪性の下痢もありません。
●飼い方
豚舎は昔みかん園をしていた大浦さん所有の山に建てています。豚舎はそれぞれ横3.6m×縦9mの“踏み込み豚舎”で平均20~30頭ずつ飼育しています。豚糞尿は全て完熟堆肥にして全量耕地還元し、トマト・きゅうり・玉ねぎ・じゃがいも・米等を無農薬有機栽培しています。
踏み込み式豚舎ではコンクリートの上で、豚を飼わずに初めに完熟堆肥を入れ、その上にオガ粉を敷いておきます。あまり豚が小さいと下痢をしてしまうので、生後60日余程でこの広い豚舎に入れ、出荷まで育てています。この豚舎の床は生きています。あまり多く豚を入れると床が悪くなり豚の調子も悪くなります。豚の頭数と床の関係は放牧場で飼育しているのと同じです。そのため、シマリの良いコクのある豚肉ができます。
床が生きているため、冬でも豚舎は締め切らずに風が通るようにしています。肉豚は180日以上飼育し、生体重120kg~130kgで出荷しています。
市販の豚肉の問題点
●品種
一般にはランドレースやヨークシャーのような増体効率の高い豚が好んで飼育されています。これにホルモン剤などを含むエサを与えて、いかに早く肉にするかが競われています。味はもとより、安全性を全く犠牲にしています。そのため、その病気がちの豚から「ムレ肉」と呼ばれる、赤身が水っぽくまずくて薬臭い豚肉がスーパーの店頭に並んでいるのです。黒豚(バークシャー)が話題になっていますが、厳密な意味で黒豚と言える豚は国内には殆どいません。
●エサ
畜産は一般に牛よりも豚、さらに鶏と小さくなるほど危険なものとなりますが、それだけ近代化、化学化が進むということです。豚のエサには主としてトウモロコシや大豆などの輸入穀物が与えられています。ですから、ポストハーベスト農薬、遺伝子組み換えなどが問題です。安全な食べものを謳う自然食業界の放牧豚や開放型踏み込み式豚舎飼育、薬品の代わりに木酢液で衛生管理をしている「木酢豚」、「自然豚」などがありますが、それらにおいてもエサの内容を改善できているケースはほとんどない有様です。またリサイクルを売りものに、残飯養豚を一部で行っているケースがありますが、現代ではその残飯が農薬や添加物だらけの有様で、とても容認できるエサとはいえない状態です。
●飼い方
現在、国内で最もひどい豚の飼い方は「清浄豚」と称して販売されている豚肉で、その謳い文句は「刺身で食べられる」衛生的な豚というものです。その実態は、まず帝王切開して無菌的に取り出した子豚を、農薬の霧たち込める密封型の豚舎で、無菌的なエサで育てます。つまり、ばい菌も住めないような化学薬品まみれの中で育てた豚だということです。現在、動物医薬品や飼料添加物として1,200種以上もの薬品が認可されているのです。国は家畜に関しては、動物だからという理由から、人に対する食品添加物(これも非常に甘い規則)よりもさらに野放し状態に放置しています。しかし、畜産品として結局は人の口に入ることを考えれば、到底放置できるものではありません。安全なのは、自然の中で暮らし、泥んこ遊びをして育つような豚だということを忘れてはいけないのです。今日、悪臭などの畜産公害が問題となって、太陽の当たらない密封型豚舎で、換気は活性炭などを使った強制換気で外へ臭いのもれない豚舎が主流となっています。これに比べれば開放型の豚舎、しかもオガくず(輸入木材は農薬の汚染があって危険、豚はそれを口にするからです)を厚く敷いた踏み込み式のものは、随分マシと言えます。それでも、健康な環境に放牧される方がさらに良いことは言うまでもありません。
ー文責 西川栄郎ー