絶品、古式荒巻鮭 エリモン
2006年11月4週号
これぞ!本物の荒巻鮭。
身が締まり、こくがある天下一品の味です。
身はもちろん、皮も頭もご堪能ください。
●豊かな海の幸を活かして
今日デパートなどで荒巻鮭として一般に売られているものは、保存食として昔、アイヌの人々が作っていた本式のものではなく、単なる塩蔵のものです。伝統的な本式の荒巻鮭と呼べるものは、今では安孫子さんの古式荒巻鮭エリモンしか私は知りません。
北海道襟裳岬の安孫子さんは、襟裳で水揚げされた魚体の大きい最高の「オス」鮭から昔ながらの本格的な荒巻鮭を作っています。「床漬け」という塩漬を5~6回繰り返したものを、真冬の清流で塩抜きした後、日陰寒風干しをして出来上がります。
安孫子さんとの出会いは、黒砂糖などの生産者・倉源の塩本哲成さんの紹介でした。安孫子貢さんのお兄さん、故・安孫子孝生さんが、塩本さんの大島紬のお客さんだった事からでした。お兄さんは北海道庁の元職員で、昆布など海藻の生育によい自然石の魚礁を推奨された方です。そのための安孫子建設を経営し、仕事の減る冬期に豊かな自然を活かしてエリモン作りや日高昆布の仕事に取り組まれていました。
●今ではここだけの本式荒巻鮭
襟裳の海は、寒暖両流の合流地点で、豊かな漁を約束してくれます。鮭漁は9月の始めから11月末まで続けられます。この襟裳で水揚げされた最高の鮭から「オス」で魚体の大きなものだけが選び分けられます。
最初、むしろの上に塩が打たれ、腹抜きされた鮭が並べられます。その上にまんべんなく塩が擦られます。塩は、ウロコとは逆方向に塩がよく馴染むようにしみこませます。この時、魚の中の水分が追い出されます。
最初の1週間が経つと、塩がよく馴染んでいるか、姿がいびつになっていないか等を点検しながら、別の場所に並べ替えます。魚体の天地を返して、また新たな塩が打たれます。これを「床漬け」といい、5~6回繰り返されます。この時使用する塩は、沖縄の海洋深層海水塩です。塩分が低く、甘みのある塩、独特の深みのある塩です。細菌数が少なく清浄、水度の低い海水、人為的な熱を加えていません。
この後、注文を受け始める頃になると、その本数だけ真冬の清流(ほぼ0℃)で荒縄を使って、ウロコなど不純物を洗い流します。そして1~2晩、床漬けの期間によって、この清流に晒して塩抜きをします。こうすると背と腹の塩分が等しくなります。どうしても腹に打つ塩分は多いからです。
次に日陰の風通しの良いところで、10日間ほど吊るします。これを「日陰寒風干し」といい、みるみるうちに輝きが出てきて、おいしい荒巻鮭の姿を見せてきます。吊るしている時に、縄へ頭部の不要な油分が吸い取られます。出荷直前には荒縄で艶を出して最終商品となります。なお真空包装する直前にお腹の中に昆布を入れ、後から出てくる可能性のある油分やドリップを吸収させます(この昆布もおいしい)。
こうして「身が締まり、こくがある」天下一品の古式荒巻鮭ができるのです。これだけ手間暇をかけた荒巻鮭がおいしくないはずがありません。日持ちが良く、いつまでもおいしく食べられる鮭として絶賛され、デパートでは1匹1万2千円以上で販売されています。
●塩と鮭が引き立て合うおいしさ
「古式荒巻鮭エリモン」は、筒切りにして焼いて食べるのが最高です。本物は、邪魔な味付けは必要としません。炊きたてのご飯に、焼いた身を少しだけほぐして混ぜると、驚くほどおいしい。その旨さはおにぎりにして冷めた時に食べると、もう一度実感できます。また、鍋や汁物に利用すれば、他の調味料は必要ないほどです。
なお食べる時の注意は、通常の1切で家族4~5人分はあるということです。荒巻鮭はもともと保存食なので、塩気が強いものです。くれぐれも少量ずつ大切にお食べ下さい。塩味は鮭の身を生かし、味わいを深める役割を果たしています。塩で旨くなった鮭と、鮭で旨くなった塩。どちらを引き立てるかで、料理の幅がぐんと広がるはずです。
それでもどうしても濃いと感じる場合は、切り身にして水に浸してみるとよいでしょう。時間にして20分~1時間。好みで加減しながら浸しておきます。塩分は水に浸す時間が長くなるほど抜けていきますが、鮭はふやけません。風味も味も変わらず、身の崩れもありません。そこが手間暇かけて作った「古式荒巻鮭」のすごいところです。
●一尾丸ごと、おいしい食べ方 ●市販の荒巻鮭の問題点
●一尾丸ごと、おいしい食べ方
★まず、怪我をしないよう注意深く、魚をさばいて下さい。
●包丁は、出刃包丁を使って下さい。やむを得ず普通の包丁を使う時は、切れ味の良い刃物をお使い下さい。●1尾のまままな板に乗せ、先ず、頭を切り離します。頭は大事にとっておいて下さい。●次に、身の部分を半分に筒切りにし、半身ずつをまな板の上に乗せ、適当な厚みで筒切り(輪切り)にする。
★焼いて
筒切りの切り身をそのまま焼いて食べるのが最もおいしい食べ方です。腹のところもしょっぱくなくて皮までおいしく食べていただけます。残った鮭は、冷えてもとてもおいしいのですが、お茶漬けにも最高です。
★お茶漬けで
●焼いて冷めた切り身を、身と皮に適当な大きさにほぐす。●ご飯に鮭をのせ、熱い煎茶をかける。●味見をして薄いようであれば、塩を少量かける。本当にコクが出ますから、出し汁をかけたりする必要はありません。ぜひとも試してみて下さい。満足度100%保証付き、日本人の味です。
★皮は酒の肴にして
皮だけを千切りにする。フライパンでサッと煎ってから、お醤油にしょうがを添えて食べると、これも最高の"おつまみ"になります。
★頭は三平汁にして
●頭を正面から2つ切りにし、適当な大きさにする。●じゃが芋を乱切りにし、人参、大根は適当に切り、下ゆでし、アクを取る。●こぶだしに酒で味付けをし、頭を入れて煮る。必要なら塩を足す。ポイントは「古式荒巻鮭」から出るだしを活かすように薄味にしたてること。
★鍋物、汁物に
鍋物や汁物に利用すれば、ほかの調味料は必要ないと感じるでしょう。
〈保存方法〉
適当な大きさの切り身にしてラップで包み、摂氏5度以下で冷蔵保存。なるべく早めにお召し上がり下さい。
●市販の荒巻鮭の問題点
荒巻鮭として一般に売られているものは、そのほとんどが単なる塩鮭です。塩漬け作業は一度きりの冷凍鮭です。塩も公社塩。酸化防止剤を使用した輸入物もあります。
ー文責 西川栄郎(オルター代表)ー