一度も農薬を使ったことのない栗畑の有機天津甘栗　丸成商事

2004年8月4週号

　「天津甘栗」の産地は天津ではありません。天津港から海外に輸出されたから、天津甘栗と呼ばれたのです。本来の産地は、河北省に連なる燕山山脈の両側に広がる地域、すなわち河北省の寛城(カンジョウ)、青龍(セイリュウ)、迂西(センザイ)、興隆(コウリュウ)、遵化(ゾンカ)が栗の産地です。
　一説には、万里の長城建設のため、山奥に招集された人々の一部が残り、その地に移住して栗の木を育てたといわれています。これらの地域は夏は30℃、冬はマイナス20℃にもなる温度差の激しい過酷な気象条件にあり、害虫が越冬できない環境のため、農薬をそもそも必要としなかったのです。貧しい農民にとって、高価な農薬を購入するすべもありませんでした。したがって、１度も農薬を使用しなかった栗林が延々と続いているのです。
　昼夜の寒暖差が大きい山地はデンプン質がのり、おいしい栗が出来るということでもあり、栗の産地となったわけです。その食味に優れた天津甘栗が有名になるにつれ、今では平地の畑で栽培される栗が主流となりました。しかし、平地の栗には害虫がつきやすく、農薬の使用が一般的に行われることとなっています。
丸成商事の会長、洪(ファン)維成さんは、食品業界に籍をおく一企業として、今日のような食品業界不信の時代に対しては、人と地域に優しい食べ物を提供していくべきだとの理念に基づいて、河北省その中でも主として青龍と遵化の栗の産地において、昔ながらの無農薬の伝統的な栗栽培を行っている農家の栗を、一般より少し高い価格で買い上げることによって支え、その産地を守ろうと考えておられます。
　2002年11月には、天津甘栗としては日本で初の有機JAS認定を取得されました。現地の農家の指導には、次男の洪元成専務が情熱を傾けておられます。
　洪維成会長は、1959年に東京でドライフルーツの輸入、小売を始められました。台湾から干梅を輸入され、ドライブインなどで販売されたのが始まりです。
　中国生まれ、台湾育ちだった洪維成さんは、日中国交回復とともに中国籍となり、中国物産を割り当てられるようになられ、2000年の自由経済の導入とともに産地での直接購入を始められました。
　山地の栗と平地の栗の味の違いに気付き、おいしさを追求したら、山地の無農薬の栗になったのです。その産地の栗を１トンあたり約２万円高く購入することにより、伝統的な天津甘栗の山地を守っておられるのです。

丸成商事の有機天津甘栗
◆生産者
河北省遷西県西溝村………………153戸
　　　　　　東荒峪郷后韓庄村… 22戸
　　　　　　東水峪村……………333戸
　　　　　　楊家峪村…………… 45戸
　　　遵化市達志溝村…………… 26戸
　　　寛城県大地村……………… 22戸
　　　泰皇島市青龍満族自治県
　　　　　　朱杖郷焦杖子村…… 40戸
　　　北京市二道関村…………… 21戸
◆栽培方法
　農薬はかつて１度も使用なし。肥料の基本は木の葉や雑草を木の根元に蓄して自然発酵で肥料にするだけ。マリーゴールドが自生しています。ハーブ(ローズマリー)を害虫防除というより、肥料として使っています。
　株の低い農作物を植え、植生による土壌被覆を活用しています。栗の木の下に密生する黒豆は食用ではなく、土に鋤き込んで、有機肥料にしています。
除草は人的に行っています。有機認証はＯＭＩＣが担当。

◆製造工程
◇天津甘栗(殻付き)◇
…おいしいのは、むき栗より殻付きのほうです。
①収穫
②集荷
③選別機で選別
④ラベル付き
⑤工場集荷
⑥秤量選別
⑦ラベル格付
⑧生栗で日本へ輸出
⑨水洗
⑩焼き
⑪小分け

◇楽笑栗(殻割り栗)◇
①収穫
②集荷
③選別
④秤量・包装
⑤生栗格付
⑥水洗
⑦沸騰した鍋で煮る
⑧栗の殻に切れ目を入れる
⑨オーブンで焼く
⑩急速冷凍
⑪合気包装

◇む　き　栗◇
①収穫
②集荷
③選別
④秤量・包装
⑤生栗格付
⑥焼き
⑦皮むき
⑧水洗
⑨水切り
⑩急速冷凍
⑪袋入れ
⑫冷凍貯蔵

◆賞味期限
天津甘栗(殻付き)
・開封前…14日間
・開封後…すぐカビてくるので、出来るだけ早くお召し上がり下さい。
楽笑栗(殻割り栗)・むき栗
・開封前…６ヶ月
・開封後…すぐカビてくるので、出来るだけ早くお召し上がり下さい。

市販の天津甘栗の問題点
　天津甘栗が有名になるにつれ、平野部で栗が栽培されるようになり、虫害などの対策に農薬が使われています。また、肥料を使っているため、亜硝酸態窒素の残留する、おいしくない栗になっています。
　昔は出荷量が年間約3000トンだったのに対し、今では天津甘栗と称して６万トンくらいが出荷されています。

　　　－文責　西川栄郎－