BMW技術で安全な肉用鶏作り 米沢郷牧場
2004年11月1週号
農事組合法人 米沢郷牧場は、
①有畜複合経営(有機農業)で農民の自立を目指す
②産直を基本とし、消費者(団体)と連帯する
③自然循環農業集団リサイクルシステムを完成させる
の3つを大切に、肉用鶏(ブロイラー)を主に、畜産品、米、野菜、果物などを生産しています。オルターへは鶏肉、トウモロコシ、サクランボなどを出荷していただいています。参加農家は約270人で、国内有数の有機農家集団です。
畜産では、エサにポストハーベスト農薬のないトウモロコシを使い、抗生物質など動物医薬品を排除しています。米、野菜作りでは有機栽培を実践し、農薬、化学肥料を使っていない面積が全体の80%になっています。
化学薬品に頼らない農業を可能にしているひとつの理由は、有用微生物を活用する「BMWシステム」を導入していることです。BMWシステムとは、牛の尿を何槽もの発酵槽を通しながら、自然石や腐葉土で処理し、バクテリア(B)とミネラル(M)で活性化した水(W)のことで、家畜の飲水や飼料、堆肥の発酵、稲、野菜、果樹の有機栽培に効果的に用いられます。BM菌体を使って、生ゴミ処理も行っています。米沢郷の物質循環の要として大きな役割を果たしています。2000年、農業関係者として世界で初めて、ISO14001の認証を得ています。 これを基盤に、生産および加工においてJAS有機認証も取得しています。
最近では、ITを活用した「トレーサビリティー」(生産履歴)システムの「AFAMA」を開発し、携帯電話のインターネット機能を使って、栽培記録をオンラインで作成し、観覧できるようにしています。従来の有機農家は日誌などをつけてきましたが、仕事で疲れた後にするその仕事は、骨が折れます。新システムでは、携帯電話から田畑にいて、その場で簡単に入力できるようになっています。必要な情報を即座に取り出せるし、消費者にも提供できます。すでに全国で300人以上の生産者が登録しています。
また、0.4mm角のI.Cチップを活用して、リアルタイムに情報提供するシステムも、農業技術研究機構と共同で研究しています。
国内農業にあってお手本ともなった米沢郷牧場の活躍ですが、ここまでくるのに、もとより平坦な道のりではありませんでした。
代表理事の伊藤幸吉さんが小学生のとき、すぐ下の弟さんを農薬の事故で失いました。この事故が、化学薬品や農薬に頼る農業に疑問を感じる原点となりました。伊藤さんは、高校時代に勤務評定反対運動の街頭署名活動や、区画整理による土地改良反対運動に参加し、そこで農民の置かれた厳しい現状を目の当たりにし、親の勧める大学進学をせず、農民として生きる道に進まれたのです。
高校を卒業して養豚を始め、すぐに地元ではトップクラスの実績を上げるまでになりました。しかし、頭数増とともに、ストレスで母豚が生まれたばかりの子豚を殺してしまい、それを見て養豚をやめてしまったのです。
その頃、農協では「預託牛制度」を始めていました。牛を買う頭金は不安で、子牛は農協が貸してくれる。1年後、成牛を販売したときに借金を返済すればよいという制度でした。ただし、牛の売買や飼料の購入は農協を通すことが条件でした。1971年の米の減反を機に、田に牛を放し、畜舎を建てました。大切に育てた牛は、数々の品評会で受賞し、東北六県のグランドチャンピオンにもなりました。しかし、1973年のオイルショックで肉牛価格暴落、7500万の借金で経営は破綻したのです。農協の指導で畜産を拡大した農家の打撃は大きく、農協は農家にリスクを押し付けたのです。金がなくなると、親戚さえ寄らなくなりました。
伊藤さんは再起をかけ、必死で市場経済を学びました。出荷価格は急落しているのに、肉屋の店頭価格は安くなっていないことに気付き、消費者に直接販売することを思いついたのです。「預託牛制度」でひどい目にあった4人の仲間とグループを作って地元で牛肉の販売を始めましたが、なかなか思うように売れず、困り果てて東京を回ったところ、生協との付き合いが始まり、1978年に米沢郷牧場を設立するきっかけとなったのです。
鶏肉の生産は、1980年から始めました。この伊藤さんらの活動に対し、これまで農協は様々な妨害をしてきました。しかし、今では政府や山形県の農政評議会のメンバーを委嘱されるようにまでなったのです。「いままでのような大量生産、大量販売のシステムを農家がやっていても、何年か先には必ずダメになる。“儲ける”という根性でやってきたが、それは“損する”ことになった。損をしないようにやっていけば、生きていける。そのためには物をうまく循環させることが大切だと思っています」。伊藤さんは、農民が自立して
胸をはっていける時代を作りたいのです。そのためには、安全な鶏肉生産にかかるコストを消費者に理解してほしいと訴えておられます。
米沢郷牧場のPHF鶏肉
米沢郷牧場が目指す鶏肉は、安全性はもちろん、柔らかく弾力があり、ジューシーですが水っぽくなく、味がよいがあっさりしていて、香りがあるが臭みがないものです。
品種
・ブロイラー
エサ
自家配合発酵飼料を給餌しています。トウモロコシはポストハーベストフリー(収穫後農薬不使用)、非遺伝子組換えです。大豆粕は非遺伝子組換えです。
そのほか、ルーサンミール、食塩、炭酸カルシウム、BMW菌体、BMW吸着粒(ゼオライト)を与えています。
BMW菌体は、魚粉と米糠(自分たちの農薬不使用米約2/3、除草剤1回の低農薬米1/3を使っています)で作っています。
飲用水は、BMW技術で活性化しています。鶏舎全体が無臭化しています。
飼い方
開放型鶏舎で平飼いしています。坪当たり38~42羽と、薄飼いをしています。
十分な風、光、運動があります。出荷日令は60日以上で、ゆっくりと長く育てています。病気やストレスの予防などに、抗生物質、抗菌剤などの薬剤は一切使用していません。ワクチンはニューカッスル2回接種のみです。鶏糞、牛糞ともに良質のコンポストにしては畜舎の敷料や田畑、果樹園へ還元されています。
市販の鶏肉の問題点
一般的なブロイラー(食肉専用鶏)の場合、生産優先で、地面が見えないくらい過密な状態で鶏を飼い、エサの効率をよくするために身動きしないよう、日光の当らない無窓鶏舎(ウィンドレス鶏舎)で飼います。そのため、ストレスなどから病気になるので、抗菌物質や抗菌剤など動物医薬品を多用します。そのため、鶏肉から抗菌物質耐性菌が検出されるようになっています。鳥インフルエンザで鶏の大量死している養鶏場は、このような飼い方をしているところです。
エサの中心はトウモロコシですが、これにはポストハーベスト農薬、遺伝子組換えが問題となります。この他、様々な飼料添加物が使用され、さらには狂牛病の心配のある肉骨粉の混合も行われています。
カタログ2001年4月第1週で鶏卵用鶏の問題とも共通の問題がありますので、それを合わせて参照して下さい。
-文責 西川栄郎-